足元を見れば石の階段、顔をあげれば昔ながらの木造の建物しかなく、景観が保たれている妻籠宿には、実はあやかしさんがいっぱいいる。
住民にしか見えないが、確かにいたるところに、あやかしさんがいっぱいいるのだ。
私は生まれた時から知っているけども、詳しいことはあんまり知らない。
結局妖怪? それとも妖精? 一体何なのかは分からない。
でもこの妻籠宿が、あやかしさんたちにとって、住みやすい場所だということは知っている。
あやかしさんは普通の人間のような姿をしているが、何だかキラキラ輝いているようなオーラを纏っているので一目瞭然だ。
何で住民にしか見えないかも分からないし、よくよく考えると分からないことだらけなので、あんまり考えないようにもしている。
だって間違いなく”いる”んだから。
私からしたら、それだけで十分なのは、きっと……。
・
・【01 妻籠宿のあやかしさんたち】
・
私の家はカフェをしている。
誰かが住んでいた木造の建物をリノベーションして作ったいわゆる古民家カフェ。
とは言え、この妻籠宿の建物は全部古民家だから物珍しさはどこにも無いけども。
でもまあパパやママの努力の結果、観光客の方々もよく来て下さる人気の古民家カフェだ。
ただ私はあまり観光客の方々の接客をしない。
それは別にまだ小学五年生で、働きたくないと思っているわけではない。
むしろ私はとても働き者だ。
何故なら、観光客の方々が入らない、裏手のほうでもう一つのカフェをしていて、私はそこの担当なのだ。
そのカフェこそ”妻籠宿のあやかしさんたち”が集まるカフェ。
「いらっしゃいませ!」
今日もたくさんのあやかしさんたちがやって来る。
私たちには普通に見えているが、観光客の方々には見えないので、きっとこの光景を見たら、食器が勝手に浮いて、また皿の上のケーキがどんどん減っていっているように見えるだろう。
だから観光客の方々には絶対見られないようにしないといけない。
でも時折、やけに高貴な感じの観光客のかたが、シェフに挨拶したいと言い出し、厨房の中に入ってくることがある。
厨房は両方のカフェと繋がっているので、厨房で働く田中さんや溝端さんは頑張ってその観光客のかたを追い出すのだ。
田中さんも溝端さんも勿論妻籠宿出身の人であやかしさんが見えている。
よく妖怪や妖精は子供にしか見えないなんて物語であるけども、少なくてもここのあやかしさんたちは赤ちゃんから老人までみんな見えている。
さらに言うと、この妻籠宿に長く働くようになった、他県の大人でも時間が経つにつれて見えるようになってくる。
見えかけてきた人は、必ず『何か動いた!』とか『ボヤっと何かいる!』と大騒ぎし始める。
それは一種の風物詩になっていて、それを聞くと住民は『そろそろだなぁ』と思うのだ。
そして頃合いを見て、あやかしさんがいるという話をする。
そんなあやかしさんが普通にいるこの妻籠宿で、私はカフェの手伝い……というか、もはやカフェを賄っている。
パパやママはカフェの経営以外にもやることがあるらしく、忙しく、こっちの、あやかしさんたちのほう仕事はほとんど私がやっている。
さすがに料理は厨房の田中さんや溝端さんに頼っているけども、注文や会計は私と、もう一人のお手伝いしてくれる男子でやっている。
その男子は、溝端琢磨(みぞばた・たくま)というこれまた生意気な男子で、私がミスする度に……いや、数少ないミスをした時に、必ずからかったり、おちょくったりしてくる、まあ嫌なヤツなのだ。
まあ手伝ってくれているからそんなに文句も言えないんだけどもね。まあ言うけども。
ちなみに厨房の溝端さんの息子だ。
学校から帰ってくると、私と琢磨で、あやかしさんカフェ開店となるのだ。
休日は朝から開店だ。忙しい。
でもやりがいがあって楽しい、が、一番に思うことかな。
外でみんなで遊ぶことに憧れていたこともあったけども、別に学校で遊べるし、それよりもあやかしさんたちのいろんな話を聞きながら、カフェを切り盛りしているほうが楽しい。
実際カフェを切り盛りするなんて経験、普通の小学生ではできないわけだし、私は今この状況がすごく有り難いと思っている。
あとはまあ、そうだなぁ……琢磨が、琢磨がもうちょっと優しい男子だったらなぁ。
「オミソ、また髪の毛跳ねてるぞ、頭の中でウサギでも飼ってるのか?」
はいはい、きました、きました。
琢磨のからかい。
ちなみに”オミソ”というのは、琢磨が勝手に付けた私のあだ名だ。
私の名前は美園(みその)。
美園の”みそ”に反応して、オミソというわけだ。
味噌に反応するんじゃない。
料亭の人か。
いやまあ料亭の人も別にすぐに味噌に反応するわけじゃないだろうけども。
あっ、早く言い返さないと。
「ウサギ飼ってても髪なんて跳ねません、飼ってないし」
と冷たくあしらうように言ったんだけども、琢磨はさっきと同じ調子で、
「じゃあ何で跳ねるんだ? 一人だけ大雨に打たれたのか?」
「そんな私だけ大雨に打たれるとかないじゃん」
「局地的な雨女の予感はしていました」
「いやホーミングする雨に打たれている女子じゃないし! 予感って、別に合ってないし!」
と、つい声を荒らげてしまうと、琢磨はフフッと笑いながら、
「でもそんな暗い顔してたら、本当に雨に額を狙撃されるぞっ」
「暗い顔なんてしてないし! 雨はスナイパーの軌道でこないし!」
というか仮に暗い顔していたとしたら、琢磨がいろいろ言うからじゃん。
あーぁ、面倒クサい。
「笑ってる顔のほうが似合ってるんだから、楽しくいこうぜ!」
……本当に面倒クサい。
住民にしか見えないが、確かにいたるところに、あやかしさんがいっぱいいるのだ。
私は生まれた時から知っているけども、詳しいことはあんまり知らない。
結局妖怪? それとも妖精? 一体何なのかは分からない。
でもこの妻籠宿が、あやかしさんたちにとって、住みやすい場所だということは知っている。
あやかしさんは普通の人間のような姿をしているが、何だかキラキラ輝いているようなオーラを纏っているので一目瞭然だ。
何で住民にしか見えないかも分からないし、よくよく考えると分からないことだらけなので、あんまり考えないようにもしている。
だって間違いなく”いる”んだから。
私からしたら、それだけで十分なのは、きっと……。
・
・【01 妻籠宿のあやかしさんたち】
・
私の家はカフェをしている。
誰かが住んでいた木造の建物をリノベーションして作ったいわゆる古民家カフェ。
とは言え、この妻籠宿の建物は全部古民家だから物珍しさはどこにも無いけども。
でもまあパパやママの努力の結果、観光客の方々もよく来て下さる人気の古民家カフェだ。
ただ私はあまり観光客の方々の接客をしない。
それは別にまだ小学五年生で、働きたくないと思っているわけではない。
むしろ私はとても働き者だ。
何故なら、観光客の方々が入らない、裏手のほうでもう一つのカフェをしていて、私はそこの担当なのだ。
そのカフェこそ”妻籠宿のあやかしさんたち”が集まるカフェ。
「いらっしゃいませ!」
今日もたくさんのあやかしさんたちがやって来る。
私たちには普通に見えているが、観光客の方々には見えないので、きっとこの光景を見たら、食器が勝手に浮いて、また皿の上のケーキがどんどん減っていっているように見えるだろう。
だから観光客の方々には絶対見られないようにしないといけない。
でも時折、やけに高貴な感じの観光客のかたが、シェフに挨拶したいと言い出し、厨房の中に入ってくることがある。
厨房は両方のカフェと繋がっているので、厨房で働く田中さんや溝端さんは頑張ってその観光客のかたを追い出すのだ。
田中さんも溝端さんも勿論妻籠宿出身の人であやかしさんが見えている。
よく妖怪や妖精は子供にしか見えないなんて物語であるけども、少なくてもここのあやかしさんたちは赤ちゃんから老人までみんな見えている。
さらに言うと、この妻籠宿に長く働くようになった、他県の大人でも時間が経つにつれて見えるようになってくる。
見えかけてきた人は、必ず『何か動いた!』とか『ボヤっと何かいる!』と大騒ぎし始める。
それは一種の風物詩になっていて、それを聞くと住民は『そろそろだなぁ』と思うのだ。
そして頃合いを見て、あやかしさんがいるという話をする。
そんなあやかしさんが普通にいるこの妻籠宿で、私はカフェの手伝い……というか、もはやカフェを賄っている。
パパやママはカフェの経営以外にもやることがあるらしく、忙しく、こっちの、あやかしさんたちのほう仕事はほとんど私がやっている。
さすがに料理は厨房の田中さんや溝端さんに頼っているけども、注文や会計は私と、もう一人のお手伝いしてくれる男子でやっている。
その男子は、溝端琢磨(みぞばた・たくま)というこれまた生意気な男子で、私がミスする度に……いや、数少ないミスをした時に、必ずからかったり、おちょくったりしてくる、まあ嫌なヤツなのだ。
まあ手伝ってくれているからそんなに文句も言えないんだけどもね。まあ言うけども。
ちなみに厨房の溝端さんの息子だ。
学校から帰ってくると、私と琢磨で、あやかしさんカフェ開店となるのだ。
休日は朝から開店だ。忙しい。
でもやりがいがあって楽しい、が、一番に思うことかな。
外でみんなで遊ぶことに憧れていたこともあったけども、別に学校で遊べるし、それよりもあやかしさんたちのいろんな話を聞きながら、カフェを切り盛りしているほうが楽しい。
実際カフェを切り盛りするなんて経験、普通の小学生ではできないわけだし、私は今この状況がすごく有り難いと思っている。
あとはまあ、そうだなぁ……琢磨が、琢磨がもうちょっと優しい男子だったらなぁ。
「オミソ、また髪の毛跳ねてるぞ、頭の中でウサギでも飼ってるのか?」
はいはい、きました、きました。
琢磨のからかい。
ちなみに”オミソ”というのは、琢磨が勝手に付けた私のあだ名だ。
私の名前は美園(みその)。
美園の”みそ”に反応して、オミソというわけだ。
味噌に反応するんじゃない。
料亭の人か。
いやまあ料亭の人も別にすぐに味噌に反応するわけじゃないだろうけども。
あっ、早く言い返さないと。
「ウサギ飼ってても髪なんて跳ねません、飼ってないし」
と冷たくあしらうように言ったんだけども、琢磨はさっきと同じ調子で、
「じゃあ何で跳ねるんだ? 一人だけ大雨に打たれたのか?」
「そんな私だけ大雨に打たれるとかないじゃん」
「局地的な雨女の予感はしていました」
「いやホーミングする雨に打たれている女子じゃないし! 予感って、別に合ってないし!」
と、つい声を荒らげてしまうと、琢磨はフフッと笑いながら、
「でもそんな暗い顔してたら、本当に雨に額を狙撃されるぞっ」
「暗い顔なんてしてないし! 雨はスナイパーの軌道でこないし!」
というか仮に暗い顔していたとしたら、琢磨がいろいろ言うからじゃん。
あーぁ、面倒クサい。
「笑ってる顔のほうが似合ってるんだから、楽しくいこうぜ!」
……本当に面倒クサい。



