ベッドの隣は、昨日と違う人

58話 旅の続きは、今日も





チェックアウト前、ホテルの売店に立ち寄った。
棚に並ぶお菓子と、部屋でも使われていたアロマキャンドル。

二人で手に取って選んだのは、美咲へのお土産だった。

「ねぇ、このキャンドル……わたしも買おっかな」

みいなが小さく言う。

「おお、いい匂いだったよな」

「うん。それだけじゃなくて……
今日のこと、思い出すから」

照れたように笑うみいなを見て、大地は一瞬だけ黙る。

「……じゃあ、俺も買おっかな」

「え、大地も?」

「これで家にいても、みいなとの旅行思い出せるんだろ」

「……うん。じゃあ、お揃いだね」

「ああ」

レジに向かいながら、二人は顔を見合わせて、少しだけ笑った。






ホテルをチェックアウトして、ロープウェイ乗り場へ向かった。
冬にはスキー場になるその斜面を、今は紅葉が埋め尽くしている。

ゴンドラの窓いっぱいに広がる景色に、みいなは思わず息を呑んだ。

「……すごいね」

「なぁ、冬さ、久しぶりにボードでも行かねぇ?」

「あ、そういえば昔、みんなでよく行ったよね」

「そうそう。社会人になってから、休み合わせづらくなってさ」

「うん……じゃ、冬、行こ?」

「おお。楽しみにしてるわ」

頂上に着くと、空気がぐっと冷たくなる。
地上より低い気温が、逆に気持ちよく感じた。

景色を眺めたり、写真を撮ったり。
大地が手を伸ばしてふたりの自撮りを撮ろうとした時、みいなは無意識に大地の腕に絡みついた。

一瞬、大地の身体がわかりやすく固まった。

「あ……ごめん……」

「ごめんなんて言うな。
寒いだろ。……そのままでいろ」

「……うん」

しばらくそのまま、並んで景色を眺めた。



「なぁ、カフェ行くか。
ピクニックするんだろ」

「うん!するする!」

受け取ったバスケットの中には、
おしゃれなサンドイッチとスープ、飲み物。
赤いギンガムチェックのレジャーシートに、ホッカイロとひざかけまで入っている。

「わぁ……可愛い……!
好きな場所で食べていいんだって」

「じゃあ、外出るか」

少し離れた場所に、同じように腰を下ろしているカップルやファミリーが見える。
二人も景色のいい場所を選んで、並んで座った。

「朝いっぱい食べたから、
お昼はこれくらいでちょうどいいね」

「おお。景色もいいしな」

風に揺れる木々を眺めながら、サンドイッチを分け合う。

「なんか、この旅行……ほんとアタリばっかりだね。楽しいね、大地」

「俺は、みいなといたらなんでも楽しいぞ」

「……もう、そういうこと言うと照れる」

大地はくすっと笑って、空を見上げた。

「……なぁ、俺また眠くなってきた」

「え……じゃあ……」

みいなは一瞬ためらってから、自分の膝を軽く叩く。

「……ここで、寝る?」

「……いいのか」

「うん……いいよ」

大地は少しだけ間を置いてから、そっと身体を預けた。
みいなはひざかけをかけて、そのまま静かに座り続ける。

山の上の風と、遠くのざわめき。
その中で、大地の呼吸だけが、ゆっくりと伝わってきた。