ベッドの隣は、昨日と違う人

57話 同じ朝を迎えて





朝、先に起きたのは大地だった。

障子越しのやわらかな光の中で、みいなはまだぐっすり眠っている。
寝返りも打たず、静かな呼吸だけが規則正しく続いていた。

大地はしばらく、その寝顔を眺めていた。
無防備で、昨日までと何も変わらないはずなのに、胸の奥がじんわりする。

そっと、みいなの髪に触れる。
起こさないように、撫でるというより、確かめるみたいに。

「……」

その指先の感触に、みいなが小さく身じろぐ。

「ん……」

ゆっくりと目を開けて、状況を理解した瞬間、はっとして布団をがばっと引き上げた。
目元まで隠して、もぞもぞと潜り込む。

「……なに」

声が少し掠れている。

「寝顔、見てた?」

「うん」

即答だった。

「見てた。ずっと」

「……やだ、恥ずかしいじゃん」

布団の中で身を縮めるみいなに、大地は苦笑する。

「3年前は、見れなかったから」

その一言に、みいなの動きが止まる。

「え……あの時……?」

布団の端から、そっと顔を出す。

「うん」

大地は視線を外して、少しだけ照れたように続けた。

「あの時はさ……
近づかないようにしてたし、見ないようにもしてた」

「……」

みいなは、その言葉を静かに受け止める。

(やっぱり……そうだったんだ)

少し間を置いて、みいなは布団の中から小さく息を吸った。

「ねぇ、大地」

「ん?」

「3年前……ありがとう」

布団の上で、指先をぎゅっと握る。

「一緒に泊まっても……
わたし、すごく安心できたんだよ」

一瞬、言葉を探すように間が空く。

「昨日も……」

そこで、みいなは言葉を切った。
全部言わなくても伝わる気がして。

大地は何も言わず、もう一度、みいなの髪を撫でた。
その手は、昨日よりもずっと自然で、迷いがなかった。


「こうしてるだけで……俺、幸せだわ」

少し照れたように、でもはっきり言う。

「……わたしも……」

短く返した声が、少しだけ柔らかかった。

一拍おいて、大地がいつもの調子に戻る。

「じゃあ、ごはん、行くか。
ビュッフェ、俺全種類食うぞ」

「あはっ」

思わず笑ってしまう。

「大地って、本当よく食べるね。
よく太らないよ……」

「まぁな」

肩をすくめて、立ち上がる。

「じゃあ準備して行こうぜ」

二人で身支度を整えて、部屋を出た。

朝食会場に着くと、すでにたくさんの人で賑わっていた。
朝の光が大きな窓から差し込んで、料理の湯気がふわっと立ちのぼっている。

「……すご」

思わず足を止める。

焼きたてのステーキコーナー、握りたての寿司、色とりどりのサラダバー。
和洋入り混じった料理が、ずらりと並んでいた。

「やば」

大地が低く呟く。

「朝から本気だな、ここ」

「ね……」

みいなも、目を輝かせたまま頷く。

「どっから行く?」

「ステーキ」

即答だった。

「やっぱり」

くすっと笑い合いながら、二人は並んで列に向かう。
昨日までと何も変わらない会話なのに、不思議と距離だけが近かった。

朝のざわめきの中で、
二人の一日は、自然に始まっていた。




あれもこれもと欲張りながら、二人はしっかりお腹いっぱいになるまで楽しんだ。

「……食べたね」

みいながカップを手に、ふぅっと息をつく。

「食べたな」

大地もコーヒーを一口飲んで、満足そうに背もたれに体を預けた。

食後のコーヒーの香りが、ゆっくり広がる。
朝のざわめきも、さっきより少し落ち着いていた。

「ねぇ」

みいながカップを両手で包みながら顔を上げる。

「今日は何しよっか?
ちゃんと決めてなかったよね」

「そうだなぁ……」

大地は少し考えるように視線を上げてから言った。

「ロープウェイで上まで行くか?」

「あ!」

その瞬間、みいなの表情がぱっと明るくなる。

「その上にね、ピクニックみたいにできるカフェがあるんだって!
レジャーシートとバスケット貸してくれてね……!」

言葉が少し早くなって、身振りも大きくなる。

「景色もすごくいいらしくて、写真も撮れて……」

「おお」

大地が笑う。

「いいじゃん」

「ほんと?」

「うん。じゃあ、そうすっか」

「うん……!」

みいなは小さく頷いて、嬉しそうにカップを置いた。

朝のコーヒーを飲み終えた頃には、
二人の次の行き先は、自然と決まっていた。