54話 通じ合う想い
部屋に戻る廊下で、不意にみいなが足を取られた。
「あっ……」
身体が傾いた、その瞬間。
大地の腕が伸びて、強くもなく、迷いもなく、みいなを抱き止める。
近い。
一気に距離がなくなって、息が絡む。
ほんの一瞬。
でも、空気がはっきり変わった。
「……」
大地はすぐに身体を離さなかった。
視線だけが、みいなの顔を確かめるみたいに動く。
「……みいな。ほら」
そう言って、手を差し出す。
「……また転ぶといけないから」
言い訳みたいな声音だった。
みいなは一瞬だけ迷ってから、そっとその手に触れた。
「……うん」
指が絡む。
ぎこちなくて、でも逃がさない力。
それは、初めてちゃんとつないだ手だった。
そのまま、二人とも何も言わない。
足音だけが静かな廊下に響く。
部屋の前に着いても、手は離れなかった。
大地が鍵を差し込む。
カチャリ。
回る音が、やけに大きく聞こえる。
ドアが開くのを待つあいだ、
つながれた手のぬくもりだけが、やけに確かだった。
手をつないだまま、部屋に入る。
大地はドアを閉め、鍵をテーブルの上に置いた。
カチャ、という音がして、
それだけで胸がまた少し高鳴る。
そのまま、ふたり並んでソファに腰を下ろした。
手は、まだ離れない。
沈黙が落ちる。
さっきまで平気だったはずの距離が、急に近い。
「……みいな」
低く、少しだけ緊張した声。
「……うん?」
一拍、息を吸う気配。
「……間違いない。
俺、お前のことが好きだ」
胸が、ぎゅっと締まった。
「……っ」
言葉が詰まりそうになって、それでも顔を上げる。
「わ、わたしも……
大地が……好き」
大地の手に、わずかに力が入る。
「……本当か?」
確かめるみたいな声。
「うん」
短く、でも迷いなく。
「……はぁ……」
大地は小さく息を吐いて、笑った。
肩の力が抜けたみたいに。
「よかった……嬉しい……」
その言葉が、胸の奥にじんわり広がる。
「……わたしも、嬉しいよ」
そう言って、もう一度、指を絡め直す。
「大地……」
言葉はそれだけで十分だった。
夜はまだ、静かに続いている。
「ねぇ……いつから?」
みいなが、そっと聞いた。
「いつから、わたしのこと……?」
大地は一瞬だけ視線を落として、少し考えるように息を吸う。
「……今思えば、だな」
ゆっくりと言葉を選ぶ声。
「昔から、みいなのこと特別だって思ってたのかもしんねぇ」
「……」
「可愛いってさ、高校の頃から思ってたし」
「ええっ?そうなの?」
思わず声が上がる。
「でも、それは違うって思ってた。
友達だし、ずっと一緒にいたしな」
少し間が空く。
「けど……こないだだな。
あいつのことで相談された頃」
「あ……」
「その頃から、なんか変わった」
みいなは小さく頷いた。
「そっか……」
大地が、視線を戻す。
「みいなは?」
「あ、えっと……」
少し迷ってから、正直に言葉を探す。
「二次会の同伴お願いしたあとかな。
一緒にいて、自然で、楽しくて……」
一瞬だけ、照れたように笑う。
「それに……初めて、カッコいいって思った」
「おい」
大地が、思わず突っ込む。
「俺、それまではカッコよくなかったってことか?」
「……ち、違う」
慌てて首を振る。
「意識してなかった、っていうか……
友達すぎて、見てなかった、みたいな」
大地は小さく笑った。
「なるほどな」
みいなは、少しだけ真剣な声になる。
「でも、今日も……すごく楽しくて」
指先が、そっと大地の袖に触れる。
「ずっと一緒にいたいって……思ったの」
「……みいな」
呼ばれた名前が、やけに近い。
大地の視線が熱を帯びる。
次の瞬間、強すぎない力で抱き寄せられた。
胸に顔が埋まって、
心臓の音が、近すぎるくらいに聞こえる。
何も言わなくても、伝わってしまう距離。
みいなは、そっと腕を回した。
時間が止まったようだった。
しばらくして、大地が小さく息を吐いた。
「……やば」
みいなの肩に回していた腕に、少しだけ力が抜ける。
離れないけど、抱きしめ続けるわけでもなくて、曖昧な距離。
「な、なに……?」
みいなが戸惑って聞くと、大地は視線をずらして、口元を指で擦った。
「いや……急に真面目になりすぎたなって思って。
こういうの、ちょっと照れるだろ」
「……今さら?」
その言い方に、みいなは思わず笑ってしまう。
「告白して、抱きしめといて、それ言う?」
「うるさい」
大地も小さく笑って、背もたれに軽く身体を預けた。
部屋に戻る廊下で、不意にみいなが足を取られた。
「あっ……」
身体が傾いた、その瞬間。
大地の腕が伸びて、強くもなく、迷いもなく、みいなを抱き止める。
近い。
一気に距離がなくなって、息が絡む。
ほんの一瞬。
でも、空気がはっきり変わった。
「……」
大地はすぐに身体を離さなかった。
視線だけが、みいなの顔を確かめるみたいに動く。
「……みいな。ほら」
そう言って、手を差し出す。
「……また転ぶといけないから」
言い訳みたいな声音だった。
みいなは一瞬だけ迷ってから、そっとその手に触れた。
「……うん」
指が絡む。
ぎこちなくて、でも逃がさない力。
それは、初めてちゃんとつないだ手だった。
そのまま、二人とも何も言わない。
足音だけが静かな廊下に響く。
部屋の前に着いても、手は離れなかった。
大地が鍵を差し込む。
カチャリ。
回る音が、やけに大きく聞こえる。
ドアが開くのを待つあいだ、
つながれた手のぬくもりだけが、やけに確かだった。
手をつないだまま、部屋に入る。
大地はドアを閉め、鍵をテーブルの上に置いた。
カチャ、という音がして、
それだけで胸がまた少し高鳴る。
そのまま、ふたり並んでソファに腰を下ろした。
手は、まだ離れない。
沈黙が落ちる。
さっきまで平気だったはずの距離が、急に近い。
「……みいな」
低く、少しだけ緊張した声。
「……うん?」
一拍、息を吸う気配。
「……間違いない。
俺、お前のことが好きだ」
胸が、ぎゅっと締まった。
「……っ」
言葉が詰まりそうになって、それでも顔を上げる。
「わ、わたしも……
大地が……好き」
大地の手に、わずかに力が入る。
「……本当か?」
確かめるみたいな声。
「うん」
短く、でも迷いなく。
「……はぁ……」
大地は小さく息を吐いて、笑った。
肩の力が抜けたみたいに。
「よかった……嬉しい……」
その言葉が、胸の奥にじんわり広がる。
「……わたしも、嬉しいよ」
そう言って、もう一度、指を絡め直す。
「大地……」
言葉はそれだけで十分だった。
夜はまだ、静かに続いている。
「ねぇ……いつから?」
みいなが、そっと聞いた。
「いつから、わたしのこと……?」
大地は一瞬だけ視線を落として、少し考えるように息を吸う。
「……今思えば、だな」
ゆっくりと言葉を選ぶ声。
「昔から、みいなのこと特別だって思ってたのかもしんねぇ」
「……」
「可愛いってさ、高校の頃から思ってたし」
「ええっ?そうなの?」
思わず声が上がる。
「でも、それは違うって思ってた。
友達だし、ずっと一緒にいたしな」
少し間が空く。
「けど……こないだだな。
あいつのことで相談された頃」
「あ……」
「その頃から、なんか変わった」
みいなは小さく頷いた。
「そっか……」
大地が、視線を戻す。
「みいなは?」
「あ、えっと……」
少し迷ってから、正直に言葉を探す。
「二次会の同伴お願いしたあとかな。
一緒にいて、自然で、楽しくて……」
一瞬だけ、照れたように笑う。
「それに……初めて、カッコいいって思った」
「おい」
大地が、思わず突っ込む。
「俺、それまではカッコよくなかったってことか?」
「……ち、違う」
慌てて首を振る。
「意識してなかった、っていうか……
友達すぎて、見てなかった、みたいな」
大地は小さく笑った。
「なるほどな」
みいなは、少しだけ真剣な声になる。
「でも、今日も……すごく楽しくて」
指先が、そっと大地の袖に触れる。
「ずっと一緒にいたいって……思ったの」
「……みいな」
呼ばれた名前が、やけに近い。
大地の視線が熱を帯びる。
次の瞬間、強すぎない力で抱き寄せられた。
胸に顔が埋まって、
心臓の音が、近すぎるくらいに聞こえる。
何も言わなくても、伝わってしまう距離。
みいなは、そっと腕を回した。
時間が止まったようだった。
しばらくして、大地が小さく息を吐いた。
「……やば」
みいなの肩に回していた腕に、少しだけ力が抜ける。
離れないけど、抱きしめ続けるわけでもなくて、曖昧な距離。
「な、なに……?」
みいなが戸惑って聞くと、大地は視線をずらして、口元を指で擦った。
「いや……急に真面目になりすぎたなって思って。
こういうの、ちょっと照れるだろ」
「……今さら?」
その言い方に、みいなは思わず笑ってしまう。
「告白して、抱きしめといて、それ言う?」
「うるさい」
大地も小さく笑って、背もたれに軽く身体を預けた。
