53話 確信した気持ち
ボート乗り場では、大地が先に乗り込んだ。
揺れるボートにみいなが足をかけた瞬間、大地がすっと手を伸ばす。
その手を借りて乗り込むと、指先が絡むように触れた。
大地と、手を繋ぐことって――
こんなふうにすることさえも、初めてかもしれない。
大地の手は、とてもあたたかかった。
ボートの上では、わざと揺らして笑い合ったり、
湖畔のもみじを背景に写真を撮ったりして、時間があっという間に過ぎていく。
楽しくて、自然で。
気づけば、ずっと笑っていた。
大地といると、本当に楽しい。
今までは、友達として楽しかった。
笑って、ふざけて、それで十分だった。
でも、今日は。
胸の奥に残る、この感じは――
今までとは、明らかに違う。
わたし、もう本当に……
大地が、好きだ。
ボートを降りてから、大地が言った。
「みいな、そろそろ戻る?」
「宿の中も楽しみたいしな」
「うん、そうしよ」
帰りのバスは、行きよりもずっと近く感じた。
さっきまで並んで見ていた湖が、もう遠くにあるみたいだった。
旅館に戻ってからは、二人で館内を一通り歩いた。
庭を眺めたり、売店をのぞいたりして、それだけなのに楽しい。
そのあと、それぞれ大浴場へ向かった。
広い湯船はまだ人が少なくて、本当ならゆっくりできるはずなのに。
湯に浸かりながら、みいなの胸は落ち着かなかった。
(……大地は、何考えてるんだろ)
答えは出ないまま、少し長めに温まってから部屋へ戻る。
扉を開けると、大地はすでにソファでくつろいでいた。
「あ、お待たせ」
声をかけた瞬間、ふっと視線が重なる。
大地の目が、上から下へと一度だけ、ゆっくり動いた。
(……そんな……見ないでよ……)
何も言われていないのに、頬が熱くなる。
「晩ご飯まで、少しゆっくりしよ」
「うん……」
ソファは向かい合って座れる配置だったけれど、
みいなは少し迷ってから、大地の隣を選んだ。
「……隣、いい?」
一瞬だけ間があって、大地が短く頷く。
「いいよ」
肩が触れるほど近い距離。
それだけで、部屋の空気が変わった気がした。
晩ご飯までは、まだ時間がある。
なのに、心臓だけが先に、早足になっていた。
ポツポツと話していた、その途中だった。
不意に、大地の頭がみいなの肩にもたれかかる。
「ちょ……大地?」
返事はなく、規則正しい寝息だけが返ってきた。
「……すー、すー……」
(寝ちゃった……?)
安心したような、少しだけ惜しいような。
みいなは小さく息を吐いて、肩をすくめる。
(……ま、いっか)
このまま、晩ごはんまで起こさないでおこう。
窓の外はゆっくりと色を変えていく。
山の稜線が影になり、空が淡く沈んでいくのを、みいなは黙って眺めていた。
肩越しに伝わる、大地の体温と寝息。
時間は静かに、穏やかに流れていた。
――やがて。
「……大地、起きて。大地」
「んあ……?」
目を瞬かせて、ようやく意識が戻る。
「あ……俺、寝てた?ごめ……どれくらい?」
「1時間半……くらいかな」
「ああー……」
大地は額に手を当てて、苦笑する。
「ごめんな。昨日、なんか眠れなくてさ……」
「……ううん。大丈夫だよ。
もうすぐご飯だし。レストラン、行こ?」
「もうそんな時間か」
少し伸びをしてから、照れたように言う。
「……寝たらちゃんと腹減ってきたわ。
よしっ、食うぞ」
「あはは。じゃあ、いっぱい食べて」
夕食は、和洋中が織り交ざったコース仕立て。
一皿ごとに運ばれてくるたび、二人で目を丸くした。
「わぁ……ほんと、すごいね。
おしゃれすぎない?」
「な。しかも、ちゃんとうまい」
「このポルチーニのクリーム……絶品」
グラスに少しだけお酒を注いで、ゆっくり味わう。
会話は途切れず、笑顔も自然と増えていく。
夜が近づくにつれて、空気は少しだけ密度を増した。
何かが始まるわけじゃない。
けれど、隠しきれないざわめきが、二人の間に静かに漂っていた。
――この先の夜を、互いに意識しながら。
ボート乗り場では、大地が先に乗り込んだ。
揺れるボートにみいなが足をかけた瞬間、大地がすっと手を伸ばす。
その手を借りて乗り込むと、指先が絡むように触れた。
大地と、手を繋ぐことって――
こんなふうにすることさえも、初めてかもしれない。
大地の手は、とてもあたたかかった。
ボートの上では、わざと揺らして笑い合ったり、
湖畔のもみじを背景に写真を撮ったりして、時間があっという間に過ぎていく。
楽しくて、自然で。
気づけば、ずっと笑っていた。
大地といると、本当に楽しい。
今までは、友達として楽しかった。
笑って、ふざけて、それで十分だった。
でも、今日は。
胸の奥に残る、この感じは――
今までとは、明らかに違う。
わたし、もう本当に……
大地が、好きだ。
ボートを降りてから、大地が言った。
「みいな、そろそろ戻る?」
「宿の中も楽しみたいしな」
「うん、そうしよ」
帰りのバスは、行きよりもずっと近く感じた。
さっきまで並んで見ていた湖が、もう遠くにあるみたいだった。
旅館に戻ってからは、二人で館内を一通り歩いた。
庭を眺めたり、売店をのぞいたりして、それだけなのに楽しい。
そのあと、それぞれ大浴場へ向かった。
広い湯船はまだ人が少なくて、本当ならゆっくりできるはずなのに。
湯に浸かりながら、みいなの胸は落ち着かなかった。
(……大地は、何考えてるんだろ)
答えは出ないまま、少し長めに温まってから部屋へ戻る。
扉を開けると、大地はすでにソファでくつろいでいた。
「あ、お待たせ」
声をかけた瞬間、ふっと視線が重なる。
大地の目が、上から下へと一度だけ、ゆっくり動いた。
(……そんな……見ないでよ……)
何も言われていないのに、頬が熱くなる。
「晩ご飯まで、少しゆっくりしよ」
「うん……」
ソファは向かい合って座れる配置だったけれど、
みいなは少し迷ってから、大地の隣を選んだ。
「……隣、いい?」
一瞬だけ間があって、大地が短く頷く。
「いいよ」
肩が触れるほど近い距離。
それだけで、部屋の空気が変わった気がした。
晩ご飯までは、まだ時間がある。
なのに、心臓だけが先に、早足になっていた。
ポツポツと話していた、その途中だった。
不意に、大地の頭がみいなの肩にもたれかかる。
「ちょ……大地?」
返事はなく、規則正しい寝息だけが返ってきた。
「……すー、すー……」
(寝ちゃった……?)
安心したような、少しだけ惜しいような。
みいなは小さく息を吐いて、肩をすくめる。
(……ま、いっか)
このまま、晩ごはんまで起こさないでおこう。
窓の外はゆっくりと色を変えていく。
山の稜線が影になり、空が淡く沈んでいくのを、みいなは黙って眺めていた。
肩越しに伝わる、大地の体温と寝息。
時間は静かに、穏やかに流れていた。
――やがて。
「……大地、起きて。大地」
「んあ……?」
目を瞬かせて、ようやく意識が戻る。
「あ……俺、寝てた?ごめ……どれくらい?」
「1時間半……くらいかな」
「ああー……」
大地は額に手を当てて、苦笑する。
「ごめんな。昨日、なんか眠れなくてさ……」
「……ううん。大丈夫だよ。
もうすぐご飯だし。レストラン、行こ?」
「もうそんな時間か」
少し伸びをしてから、照れたように言う。
「……寝たらちゃんと腹減ってきたわ。
よしっ、食うぞ」
「あはは。じゃあ、いっぱい食べて」
夕食は、和洋中が織り交ざったコース仕立て。
一皿ごとに運ばれてくるたび、二人で目を丸くした。
「わぁ……ほんと、すごいね。
おしゃれすぎない?」
「な。しかも、ちゃんとうまい」
「このポルチーニのクリーム……絶品」
グラスに少しだけお酒を注いで、ゆっくり味わう。
会話は途切れず、笑顔も自然と増えていく。
夜が近づくにつれて、空気は少しだけ密度を増した。
何かが始まるわけじゃない。
けれど、隠しきれないざわめきが、二人の間に静かに漂っていた。
――この先の夜を、互いに意識しながら。
