ベッドの隣は、昨日と違う人

52話 湖と食欲






「なんか、腹減ってきたな」

「うん。もうすぐ13時だもんね」

「湖のそばでさ、いいとこ見つけたから。
そこ行ってみねぇ?」

バスで10分ほど揺られて辿り着いた湖は、思っていたよりずっと静かで、趣があった。
水面は穏やかで、周囲にはおしゃれな小さなお店が点在している。

「……いいとこだね、ここ」

湖のそばの銅像と同じポーズで写真を撮ったり、
タイマーをセットしてジャンプ写真に挑戦したり。

「せーのっ!」

何度も跳んで、何度も失敗して、
二人してはぁはぁと息を切らしながら、笑い合う。

「見て、大地、これ!」

スマホを差し出す。

「2人で、ちゃんと飛べてる」

「おぉ……何回目だ、これ」

画面を覗き込んで、苦笑する。

「俺ら、頑張ったよな」

ふいに、ぐぅ、と、はっきり聞こえる音。

「……みいな、飯いこうぜ、飯」

「あ、ほんと。お腹減ったー」

大地が調べてくれていた店は、
湖を一望できる、おしゃれな和食屋だった。

昼どきを少し過ぎた時間で、
ちょうど窓際の席が空いたところだった。

「わぁ……ラッキーだね、大地」
「すっごい。全部見える」

「な。今日、運いいな」

メニューを開きながら言う。

「何にする?」

「わたし、これ!」

指さす。

「鯛茶漬け定食」

「おお。じゃあ俺は……」

少し迷ってから、

「十五穀米の鶏カラ御前」

「がっつりだね」

笑って言う。

「晩ご飯、きっとすごいの出るよ?」

「……あ、そっか」

一瞬考えてから、

「じゃあ、唐揚げみいなに1個やる」

「え、いいの?」

「その代わりさ」

少し照れたように言う。

「さっき来るとき見た、限定クレープ食べたい」

「もぉ」

くすっと笑う。

「こないだもパンケーキ食べたじゃん」

「こーゆーの大好きなんだよ」

「じゃあ……」

少し間を置いて、

「あとでクレープ、一口ちょうだい?」

「……え?」

「だって」

肩をすくめる。

「1個食べたら、わたし絶ーっ対晩ごはん入らないもん」

大地は一瞬黙って、それから小さく笑った。

「……はいはい」

窓の向こうで、湖が静かに光っていた。




「お待たせしましたー」

「わぁー、美味しそう、かわいいー!」

みいながスマホを構えて、
角度を変えながらパシャ、パシャとシャッターを切る。

「じゃ、あったかいうちに……」

「「いただきます」」

ふたり同時に手を合わせた。

「んー、美味しい!」

「こっちも。黒酢かかってる、この鶏カラ。
みいな、ほんとに1個食う?」

「うん、食べる!ありがとう」

皿の端に寄せて差し出すと、
みいなは自然に箸を伸ばして受け取った。

会話が途切れることなく、
二人とも最後まできれいに食べきる。

「よし、じゃあ……」

大地が立ち上がり、軽く伸びをする。

「クレープ、行くか」

「え、もう?大地、すごいねぇ」

クレープ屋で大地が頼んだのは、
秋限定マロン風味のブリュレカスタードクレープ。
表面がこんがり焼かれていて、スプーンで割ると中がとろりと揺れた。

「これこれ。これ食ってみたかったんだよな」

「うわ、美味しそう~」

「だろ。……ん、うま」

「えー、ちょうだい、大地」

「お、おぉ」

大地は一瞬だけ動きを止めてから、
クレープの角度を少し変えて差し出す。

みいなが身を寄せて、ひと口かじる。
その間、大地は視線を外し、店先のメニューを眺めていた。

「うん、美味しい!ありがとう」

そう言って、今度はみいながカフェラテを持ち上げる。

「大地、これ飲む?」

ストローを向けられて、大地は一拍置く。
それから、何でもないふうに受け取った。

「ん、サンキュ」

ストローの位置をほんの少しずらして、口をつける。
飲み終えると、カップを持ったまま視線を落とした。

「……うま」
「はー……腹いっぱいだ」

「じゃあさ、ボートとか乗る?
大地、運動してお腹減らさないと」

「それって、俺だけ焦げってことか?」

「うん♡」

大地は小さく息を吐いて、肩をすくめた。

「……ったく」