メイドはご主人様に偽装恋人を依頼する




「こ、ここが今日のデートスポットだよ……」


デート予定の建物の前で、わたしは内心冷や汗タラタラだった。


だって――瑞希たちと合流してから、奏斗くんの機嫌が悪い。

そりゃあもう最悪。過去に見たことがないレベル。


いや、だってまさか、
瑞希のことを女の子だって思い込んでるなんて分かるわけないし。


というか、わたしが「瑞希は男の子だよ」なんて問われてもないのに言ったら変じゃない?


「あ、あのさチームワークが大事だし、仲良くしようよ。ね?」


奏斗くんってば、瑞希と全然目を合わせようとしない。


「別に。会ったばっかの距離感なんてこんなもんだろ」


ぶ、ぶっきらぼう……。


学校ではいつも人に囲まれて楽しそうにしてるし、
わたしといるときも……
その、意地悪なときもあるけど嬉しそうに見えるし!


こんな態度はじめて見た……。


「莉衣はマジで鈍くせぇな」


「わぁ!」


びっくりした!
瑞希がいきなり肩を組んでくるんだもん。


「ちょ……瑞希!」


今日は〝ダブルデート〟。

瑞希の彼女――春姫ちゃんがいるんだよ。


それなのにそんなこと気にしないとばかりに、瑞希がくっついてくる。


「おい。莉衣に触んな」


強い力で体が持ち上げられて、いつの間にか奏斗くんの腕の中にいた。


待って。
今、奏斗くん、片手でわたしのことを持ち上げなかった⁉
どんな力してるの⁉


「おー、おー。怒ってんじゃん、彼氏くん。それって莉衣がちゃんと俺のこと伝えなかったからっしょ? そーゆーとこ、ヌケてんだよな、莉衣は」


「……最近はそんなにうっかりすることなかったんだけどな」


たしかに、中学生のころまではおっちょこちょいだったけどさ。


「蓬莱つったっけ? おまえも彼氏なんだからさ、広い心で許してやれよ。こんなんでイラついてて、莉衣のこと大事にできてんのか?」


「おまえに関係ないだろ」


「二人ともいいかげんにしてよ。せっかく遊びに来たんだから、仲良くして」


春姫ちゃんの言葉に、一触即発だった雰囲気が微妙な気まずさに変化する。


わたしは奏斗くんの腕から抜け出して、彼を見上げた。


「ほら入ろう。予約の時間まであと少しだし」


「……ああ、分かった。ケンカしてても時間が無駄だしな。つーか、俺初めてやるわ」


「うん。わたしもなんだよね」


楽しみだなぁ、リアル脱出ゲーム。