メイドはご主人様に偽装恋人を依頼する




いよいよデート当日。


「この格好で大丈夫……だよね?」


奏斗くんをつき合わせるんだからダサイ格好はしたくない。
かといってメイドのわたしが浮かれた格好をして、
何か問題が起こったときに動きが鈍くなるなんて絶対にダメ。

悩んだ結果選んだのは、オーバーサイズのニットとショートパンツ。


鏡の前でくるりと回ってみる。


「うん、大丈夫そう!」


腰まである髪は、ポニーテールにしていつもとは違う雰囲気を目指してみた。

学校ではおろしてるし、メイド中は低い位置で二つに結んでるから、
特別感……あるよね。



「あ! もうそろそろ時間だ!」


奏斗くんと一緒に家を出る約束をしている。
ちょうど五分前。


「もう行こう。家の中とはいえ、奏斗くんを待たせたくないし」

そう思ってたのに――。


部屋の扉を開けると、
奏斗くんが向かいの壁に背中を預けて立っていた。


「やだ、待たせちゃった?」


「そうそう、それが聞きたかったんだ」


なんか奏斗くん笑ってる。

ニコニコじゃなくて、ニヤニヤって感じに。
奏斗くん以外の人がしたら下品に見えそうな表情なのに、彼の整った顔が作ると魅力的で目が離せなくなる。


そして近づいて来た奏斗くんは、わたしのあごを指で持ち上げた。


「デートっぽいだろ」


「デ、デートじゃないってば!」


「デートだろ」


「恋人のふりをしてもらうだけだって」


「ダブルデートだって言ってただろ」


「…………それはそうだけど、嘘のデートだし」


「俺はガチのつもりでデートするからな」


奏斗くん⁉
わたしの耳元に口を寄せて何を……⁉

ち、近いんだけどっ!


「莉衣も俺のことを本物の彼氏だと思って」

低くて甘い声と息が耳に……!

「っ……!」

無理っ!


驚いて飛びのくと、奏斗くんが笑っていた。

きっと今、わたしの顔は真っ赤だと思う。


「こーんなかわいい彼女がいるって、俺幸せだな!」


冗談めいた言い方。


か、からかわれた……!


「も、もう!
そんなこと言ってるとほんとに好きになっちゃうよ!
そしたら困るのは奏斗くんなんだからね!」


心臓がドッドッドッってうるさすぎ!


くん、と勢いよくそっぽを向くとポニーテールが揺れた。
速足で玄関の方へと逃げ出す。


「待てって、莉衣」


笑いをかみ殺してるのが分かる声。


「……知らない!」



あぁもう。早く収まってよね、心臓。