「当時の俺はね、誰に対しても笑顔でいないといけないって思い込んでた。親が経営者だから息子の俺が完璧な良い人でいなきゃって。良い子を演じることに限界を感じていた時だったから、奈乃ちゃんの言葉を聞いて心が楽になったんだよ」
「そうだったんですか」
「でも家族や学校では剣崎グループの御曹司という肩書のせいで、良い人でいることをやめられなくて。だから心を許せるメンバーに声をかけてバンドを組んだんだ。ロイフラのエースの時は無理に笑顔を作らないことで、精神面でのバランスをとっている。ろくでもない人間だよね」
痛々しい笑顔を見せたあと、剣崎先輩はまぶたを閉じた。
「優しい時の俺だけを奈乃ちゃんに好きになってもらいたかった。クズ人間のエースは奈乃ちゃんの瞳に一切映りたくなかった。まさかライブに現れるなんてね。男に連れ去られそうになっていた時はあせったよ。他の男に奈乃ちゃんがとられるくらいなら、エースの俺でいいから隣にいて欲しくて俺の彼女だってみんなの前で宣言してしまった。そのあとに後悔して、やっぱり高校の俺を好きになってと餌づけをエスカレートさせて。奈乃ちゃんがエースを嫌いになるように女好きを演じてみたんだけど、罰が当たったね。俺とエースが同一人物だってバレてしまったんだから」
立ち上がって空に伸びをした剣崎先輩。
もやが晴れたようなさわやかな笑みを浮かべている。



