「あぁ、この前のライブの子ね。言ってやりなよエース、素朴な子と遊んでみたくなっただけでもう俺の前に現れるなって」
真っ赤な唇を歪ませた美女は「私たちはこういう関係なの」とエースさんの首に両腕を巻き付けた。
密着した体を離し、エースさんの仮面を外し、エースさんは自分のものと言わんばかりのどや顔で仮面を振っている。
えっ? この顔は……
私は驚きを隠せない。
目を見開き、戸惑い揺らぐ視線を彼に突き刺してしまう。
けんざき……先輩?
驚きが強すぎて声にならなかった。
剣先先輩も私を見つめたまま固まっている。
剣崎先輩がエースさんなの?
そんなはずはないと、脳内に居座るもう一人の自分が首を横に振る。
高校の剣崎先輩とロイフラのエースさんは、性格が真逆すぎる。
いつも笑顔でみんなに慕われ頼りがいがある、生徒会長の剣崎先輩。
学校がある日はなぜか私の教室にやって来て、餌づけと称してお菓子を食べさせてくれる優しい人。
それに引きかえエースさんは、ライブ中も終始不機嫌。
ファンに微笑むことも感謝を伝えることもしない、傍若無人なバンドマン。
別人に違いない。
顔はそっくりすぎるから双子かも。
そういうことにしておこう。
それしかない。
そうじゃないと私は、剣崎先輩に騙されていたことになってしまう。



