エースさんが私の恋人なわけがない。
なんの面識もない。
きっと連れ去られそうになっている私をステージの上から見つけ、歌うのをやめて助けに来てくれたんだろう。
お客さん無視の冷酷バンドマンだと思っていたけれど、優しい人なのかもしれない。
射殺しそうなほどの眼圧で男を睨み続けているエースさん。
男は体を震わせながら頭を下げると
「ロイフラのエースに睨まれたら俺らのバンドなんて簡単につぶされる。ほんとすみませんでした」
逃げるようにライブハウスから出て行った。
明るいロビーにつながるドアが閉まり、立見スペースに薄暗さが戻る。
「怖かった……」
本音とともにこぼれた大粒の涙。
足に力が入らなくて、立っていられなくて、崩れるように床にしゃがみこんでしまった。
「ごめん、遅くなった」
ぶっきらぼうなオス声に驚き、潤んだ瞳を向ける。
なぜエースさんが私に謝ってくれたんだろう。



