腕を痛がっている様子はない。
本当に病院に行くんだよね。
良い人だと信じたい。
でも彼の車に乗って大丈夫?
変なところに連れていかれない?
最悪の未来が頭をよぎってしまう。
正直逃げたい。
誰か助けてくれないかな。
でもお客さん達はロイフラのライブに夢中で、後方で泣きそうになっている私のことなんて視界に入っていない。
ノリノリで体を揺らしながら、ロイフラのエッジの効いた演奏やエースさんの力強い歌声に酔いしれている。
ロビーへのドアが完全に開いてしまった。
さらに数歩でライブハウスの外に出てしまう。
さらに十数歩で道路に出てしまう。
逃げるなら今だ。
でも怖い。
足に力が入らない。
また怒鳴られたらどうしよう。
気づくと頬に涙が伝っていた。
恐怖で足が震え、助けを呼びたくても声すら出ない。
私の足がドア枠をまたぎ、もうダメだと涙で潤んだまぶたを強く閉じた時だった。
「俺の彼女から離れろ!」
マイクを通した怒鳴り声が、ライブハウス中を駆けめぐったのは。



