大学2年生にあがってすぐの4月。私はいつも通りチョコチップ入りのちぎりパンとカフェオレを買うためにセブンイレブンに来ていた。
レジに並び、財布を取り出そうとトートバッグを開いた瞬間、ルーズリーフを家に忘れてきてしまったことに気づいた。
ルーズリーフがないと、授業の内容をまとめられない。
私はレジ待ちの列から抜け出し、文具コーナーに向かった。
一番上に置かれていたルーズリーフの袋を手に取り、もう一度レジ待ちの列に並び直す。
順番が来て、私はレジカウンターにちぎりパンとカフェオレ、そしてルーズリーフを置いた。
バーコードを読み取ってもらっている間に財布を開き、支払い画面に切り替わるのを待機すると、「今日はルーズリーフも買うんですね」とその男性店員が話しかけてきた。
「はい…」
顔を上げた私は、文字通り息をのんだ。胸の奥で心臓が跳ねる。
そこにいたのは、高校時代のかつての私の恋人――夏葵のような人だったから。
鋭さと甘さが同居している、横にしゅっと長くて、目尻の垂れた目元に、きゅっと引き結ばれた真一文字の薄い唇。
でも、左胸につけられた『水無瀬』の名札が現実を主張してくる。
その顔を無意識のうちに眺めてしまっていたせいで、「僕の顔、何かついてますか?」とその男性店員――水無瀬さんが眉を下げて困ったように笑った。
「あ、いや、全然ついてないです!」
慌ててそう弁解しながら財布を取り出し、パン代諸々をぴったり支払う。
「ありがとうございました」
白いレジ袋を受け取った瞬間、右手の人差し指の指先がほんの少し触れた。
そこからびりっと電流が走るような感覚に戸惑いながらも、私はレジ袋を腕に下げてコンビニをあとにする。
水無瀬さんのぬくもりが指先にずっと残っているような気がして、私は左手で右手の人差し指を包むようにそっと握りしめた。



