「ありがとうございましたー!」
いつも利用しているセブンイレブンでチョコチップが入ったちぎりパンに高千穂牧場のカフェオレを買い、コンビニを出ると、お決まりのあいさつと間抜けな入退店音が店内に響いた。
駐輪場に置いていた白い自転車のスタンドを立ち上げ、トートバッグを前のカゴに乗せて、私――桐原雫星は自転車にまたがった。
私が通っている星丘大学につながる緩やかな坂を、チェーンをぎいぎい鳴らしながら登っていると、「よっ、しず」と誰かが私の肩を叩いた。
「海麗!」
きゅっとブレーキをかけて声の主の方に振り向くと、そこには私の親友――大倉海麗が立っていた。
「おはよー。しず、2限目から?」
自転車を降りて横並びで一緒に歩いていると、海麗がつややかな黒髪を手ぐしで梳きながらそう問いかけてきた。
「うん。海麗は?」
「私も2限目から。適当に選んだフランス語に苦しめられてるところです」
そうおどける海麗に、「私は古典探求。1か月後にレポート提出って言われても、やる気出ないよね」と返答する。
海麗と談笑しながら授業が行われる教室に向かっていると、私たちの横を男子生徒が通っていった。
無造作にセットした、清潔感のあるさっぱりした黒髪に、流れるように美しい横顔。
彼の顔を無意識のうちに目で追っていると、「おーいしずー?ついたよー?」と海麗が私の顔の前でぶんぶん手を振った。
「あ、うん!授業頑張って!」
海麗の前から逃げるようにして、私は小走りで教室に向かった。



