「また遊びましょうね」
「うんっ! 美穂子さん、今日はありがとう!」
「ええ、勿論。じゃあ失礼します」
美穂子はこちらに向かって微笑むと白いパンプスを鳴らしながら、鼻歌混じりに自宅へと戻っていった。悠聖が無事に帰宅し、彼女が自宅に戻っても私の心には靄がかかる。
「ママ? 怖い顔してどしたの?」
「悠聖、遊びに行くまでは杉原さんのこと、美穂子おばさんって呼んでたでしょ? どうして、美穂子さんって呼び方変えたの?」
「あ、美穂子おばさんより、美穂子さんって呼んだ方が仲良しみたいでしょ?って言われて、僕もそうだなって思って」
悠聖がはにかむように笑った。
「そうなのね……」
子供の前とはいえ思わず顔が引き攣る。
(子供に……それもよその家の子に自分のことをさん付けで呼ばせるなんて……)
私は悠聖の手を引いて浴室に連れて行く。
「悠聖、ご飯の前にお風呂入ってくれる?」
「うん、分かった」
私は悠聖が湯船に浸かるのを確認してから浴室扉を閉めると、スウェットをゴミ袋に入れて玄関先に出した。勿論、中身がわからないように掃除用のタオルに包んでだ。
(気のせいなんかじゃない。気持ち悪い)
(……それにやっぱり見たことある気がする)
(悠作に話さないと)
私は明かりが灯る向かいの窓を凝視してから扉を閉めると、夫の帰りを待った。



