──ピンポーン。
(忘れ物かしら?)
全ての段ボールが家に運び込まれ、引越し業者が帰宅したのは五分前のことだ。
私は立ち上がり、玄関の扉を開ければ白のワンピースを身に纏った女性が立っていた。女性の長い黒髪は一つに括られていて耳元に黒い薔薇のピアスが見える。
(あれ、あの……ピアスどこかで?)
一瞬そんなことが頭によぎったがそんなことはどうでもいい。
「……あの……どちら様でしょうか?」
私の言葉にすぐに女性が涼しげな目元をにこりと細めてみせた。このすっきりとしたどこかミステリアスな印象を与える目も見たことがあるような気がするが、気のせいだろうか。
「突然すみません。初めまして、向かいに住んでいる、杉原です」
向かいに住んでいる住人ということと、杉原と名乗った女性の名に覚えがないことにほっとする。
「あっ……、お向かいの方だったんですね。今日から向かいに越してきました、小林です」
「荷解きでお忙しいと思いつつ、ご挨拶かねて訪ねさせて頂きました」
「いえとんでもないです。本来ならこちらからご挨拶にお伺いするところなのに」
「ふふ。段ボールすごいですね」
「そうなんです」
杉原さんの視線を辿るように私もダンボールの山に目を移してから、はっとする。
「あ、ちょっと待ってくださいね」
私はテーブルの上に出していた、引越しのご挨拶用の洗剤を杉原さんに差し出した。
「つまらないものですが……」
「あら、ありがとう。ねえ、小林さん。下のお名前は?」



