夜明けが世界を染めるころ


いずれ彼女の「共鳴」が、
どうしても必要になる瞬間が来てしまうかもしれない。

執務室の灯りを落としたまま、
ひとり、窓辺に立っていた。

王国は、綺麗事だけでは守れない。
理想を掲げるには、現実はあまりに多くの犠牲を要求する。

(その時が来たら……)

彼女の力は、剣よりも、軍よりも、
静かで、深く、抗いがたい。

だからこそ――
今は、この力を知られるわけにはいかない。

知られれば、欲しがる者が現れる。
利用しようとする者も、守ろうとする者も現れる。

そのすべてが、
彼女を傷つける。

(本当は、すべての危険から遠ざけたい)

城の外にも、内にも。
争いからも、期待からも。

だが、俺は理解している。

それが、不可能だということを。

彼女の器は――大きすぎる。
誰かの庇護の中に、
静かに収めておけるほど、小さくはない。

押さえつければ、
折れるのは、きっと彼女の方だ。

だからこそ、
セナの言葉が胸に残っている。



「私は、彼女の騎士です。
 力ではなく、人としての在り方を守りたい」


――違うな。

殿下は、心の中でそう訂正する。

(あれは、騎士としてだけの言葉じゃない)

同じ男として。
誰かの力ではなく、
在り方そのものに、心を動かされた者の言葉だ。

自分と、同じだ。

(だから、信用できる)

王としてではなく。
立場でも、命令でもなく。

「彼女を傷つけたくない」

その一点で、
確かに、同じ場所に立っている。

静かに息を吐いた。

(選ばせる時が来たら……)

それは、
王が命じるのではなく、
彼女自身が、決めなければならない。

その時まで――

知られないように。
傷つかないように。

だが、決して、
小さく閉じ込めはしない。

それが、今の自分にできる、
唯一の“処置”だった。