夜明けが世界を染めるころ

そろそろオーウェンが戻ってくるだろうか…
そう思っていたら慌ただしい足音が響いた。

「――殿下!」

勢いよく飛び込んできたのは、オーウェンだった。
呼吸が乱れ、額にはうっすらと汗が浮いている。

「孤児院で……女の子の持つ宝石が暴走しています!」

その言葉に、2人の空気が一変した。

セナがすっと鋭い目を向ける。
一瞬だけ目を閉じてから、オーウェンを見た。

「場所は」

「中庭脇の遊戯室です。すでに感情への侵食が――」

そこまで聞いて、二人は顔を見合わせた。

言葉はいらなかった。

「こちらです」

セナがうなずいて先導する。

――最悪の場合、剣の使用も辞さない。
そんな覚悟を、それぞれが胸に抱いていた。

***

遊戯室の扉を開けた瞬間。

想定していた光景は、そこにはなかった。

暴走する宝石の閃光も、
泣き叫ぶ声も、
張りつめた魔力の圧も――ない。

そこにあったのは、
床に座り込む一人の少女と、
その前に膝をつくティアナ嬢の姿だった。

ミヤは熊のぬいぐるみを胸に抱き、
まだ涙の跡は残っているものの、呼吸は落ち着いている。

宝石は――静かだった。

「……終わっている?」

セナが、信じられないものを見るようにつぶやく。

即座にティアナ嬢に目をやる。

剣は、鞘に収まったまま。

抜かれた形跡はない。

「ティアナ嬢」

名を呼ぶ。

ティアナはゆっくりと振り返り、立ち上がった。
その表情には、わずかな疲労と――確かな達成感があった。

「もう大丈夫です。
完全に安定しました」

「共鳴……?」

オーウェンが思わず声を漏らす。

「剣は使っていないのか?」

私の言葉に、ティアナはうなずいた。

「はい。
殿下が勧めてくださった本で読んだ方法を……はじめて実践しました」

セナの目が、驚きに見開かれる。

「お嬢様そんな危険なことを…」

ティアナは少しだけ苦笑した。

「正直、成功する確信はありませんでした。
でも、もう大丈夫そうです」

少女がもつ熊のぬいぐるみの宝石を見つめる。
そこには、もはや濁りは感じられない。

「……見事だ」

ほんとに彼女は私の創造を容易く超えてくる。


「間に合わなかったかと…」

オーウェンは安堵したように肩を落とす。