夜明けが世界を染めるころ

孤児院でのボランティア準備を進めながら、仕事も片付け、合間を縫って論文の作成も進める。
机の上には資料が積み上がり、気づけば窓の外はすっかり暗くなっていた。

「んー……」

ぐっと背伸びをした、その時。

コンコン、と控えめなノック音が響く。

「まだ起きていらっしゃったんですね」

扉を開けたユウリは、咎める様子もなく、紅茶と軽食を静かに机に置いた。

「ありがとう。怒られるかと思った」

「お嬢様とは長い付き合いですから」
少しだけ苦笑して続ける。
「もう言うのはやめました。ですから、そばで支えることにしたんです」

「さすがユウリ」

「ですが、明日はボランティアですよ。
そろそろ休まれてはいかがですか?」

「うん。この論文を片付けて、ボランティアの最終確認をしたら休むよ」

「……本当に、頑固ですね」

「ありがとう」

「褒めていませんよ」

「ふふ」

ユウリとは、もう10年の付き合いになる。
私の性格も、無理をする癖も、きっと全部お見通しだ。
限界になるまで何も言わず、ただ支えてくれる――それが彼なりのやり方なのだろう。

「パン屋の旦那さんにも、ボランティアを手伝ってもらっているんですね」

「うん。直接、宝石の件では助けになれなかったけど……
少しでも力になれたらいいなって思って」

ユウリは一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。

「お嬢様は、優しいですね。
……時々、優しすぎて心配になるくらい」

「そう?」
紅茶を一口含み、静かに答える。
「私、別に優しくないと思うけど。打算的な人間だし」

いつも裏で計算して、
どうすれば自分にとって得か、どう動けば後々楽になるか――
そんなことばかり考えている、ずる賢い人間だ。

「それでも」
ユウリは穏やかに言った。
「結果として誰かの未来を残す選択をしているなら、それは優しさだと私は思いますよ」

その言葉に、返事はしなかった。
ただ、カップから立ち上る湯気を見つめながら、少しだけ胸の奥が温かくなるのを感じた。

――さて。
もうひと踏ん張りだ。

論文をまとめ、最終確認を終えたら、今日は休もう。
明日は、みんなで作り上げる大事な一日なのだから