夜明けが世界を染めるころ

さあ、どうだ。殿下が少し固まっている。
これは……失敗か。

「すごいなぁ……誰の差し金だろう。褒美をあげたいよ」
ぼそっと呟く殿下。
何を言ってるんだ、この人は。

「あ、あの……」
本を返した方がいいのか、
いや返したくない……!
できることなら手元に置きたい。

「あぁ、ごめんね。返す必要はないよ。それは君にあげたのだから」

「ありがとうございます!」
思わず食い気味にお礼を言う。はあ〜、助かった……。

「少しお礼をもらってもバチは当たらない気がする」

「へっ?」
突然、手首を掴まれ、ソファに座らされる。

「あの……なんでしょう」
思わず問いかけるが

「何だろうね」
殿下はニコッと小首をかしげる。
何を企んでいるのか、まったく読めない。
整った顔とエメラルドの瞳が私をじっと見つめる――圧倒的な美しさと威厳に、心臓が跳ねる。


――このままでは……
けれど、間一髪のタイミングで、扉の向こうから軽やかな声。

「お取り込み中失礼致します」

セナーー!銀髪の私の護衛騎士。
良いタイミングだよ。

セナが静かに現れ、その場の空気を変える。
殿下の手が私に届く前に、私はシュタッと殿下から逃げる。


「おや、君はティアナ嬢の騎士かな?」

「はい、セナと申します」
セナは凛と美しくお辞儀をする。

「では、殿下失礼しますね」
とりあえず本を返さなくてよくなり、少し気分が軽くなる。

「お嬢様。ドレスでベランダを飛び越えるのはどうかと思います」

「しょうがないでしょー!急ぎだったんだから。ユウリには絶対言わないでね!怒られるから」
ビシッと付け加える。ユウリに怒られると、本当に怖いからな……。

「わかりましたよ。それと報告です。デホラ男爵は王国騎士団に引き渡しました。お嬢様が目をつけていたウェイターですが、屋敷から出るところをテオが押さえました。ただ証言を取るのは難しそうです。頑なに口を閉ざしています」

「そう。ありがとう」

ローブの男はどこまで関わっているのだろう。
毒を仕込もうとした人物は誰なのか……。
ディラン殿下は第一王子。敵もそれなりにいるはずだ。
とらえたウェイターも、口を割らないだろうな。

気になることは山ほどあるが、今はとりあえず疲れた。
肩の力を抜き、深呼吸を一つ。
――よし、帰ろう。

波乱のパーティーは幕を閉じた。