夜明けが世界を染めるころ

ディランと、目が合った。

月明かりを映したその瞳が、熱を帯びてこちらを射抜く。

逃げ場のない距離。

右手がゆっくりと伸び、
指先がそっと私の頬に触れた。

指の腹が、確かめるようになぞる。

「……ティアナ」

名前を呼ばれるだけで、胸が跳ねる。

視線が唇へと落ちたのがわかって、
息を呑んだ、その瞬間。

ディランの額が触れ、
次いで――唇が、重なった。

触れるだけの、柔らかなキス。

けれど離れようとした私を、
彼の手がそっと引き止める。

もう一度。

今度は少しだけ深く、確かめるように。

触れるたび、想いを確かめ合うような口づけ。

熱と鼓動が、静かな庭園に溶けていく。

やがて唇が離れ、額を合わせたまま。

「……急がない」

低く、優しい声。

「君が逃げたくなるなら、一緒に逃げたっていい。
迷うなら、一緒に迷う」

少し困ったように笑って、

「最悪、俺の代わりにレイが王子になればいい」

「……そんな適当な」

思わず呆れると、くっと喉を鳴らして笑う。

頬に触れた親指が、そっと涙の跡をなぞった。

「だから……この先も、俺といてくれ」

その声には、王子としてではなく、
一人の男としての不安と願いが滲んでいた。

「……はい」

そう答えた瞬間、
彼の腕が静かに引き寄せる。

もう一度、そっと唇が触れた。

今度は、誓うように。
離れないと約束するように。

月明かりに満ちたドーム庭園で、
2人の影が、静かに重なった。

それは、言葉よりも確かな――
恋の始まりを告げるキスだった。