夜明けが世界を染めるころ

「殿下、どちらに――!」

「殿下ー!!」

遠くから、彼を探す声と足音が近づいてくる。

「……呼ばれていますよ」

「そうみたいだ」

「いいのですか?」

「いいに決まってる」

迷いなく、彼は言い切った。

「君より大事なことなど、ない」

一瞬、言葉を失ったその隙に――

「さて。邪魔者が来る前に、こちらも逃げるか」

「え?」

そう言うなり、身体がふわりと宙に浮いた。

「ちょ、なにを――!?」

「我が想いに応えよ。アレキサンドライト」

低く告げた瞬間、
宝石が淡い光を放ち、魔力が私たちを包み込む。

夜気が一気に流れ込み、視界が開けた。

ディランはそのままテラスの縁へ足をかけ――
まるで当然のように、身を躍らせた。

「ちょっ……!?
なにしてるんですかーー!!」

2階の高さから、ふわり。

落下の衝撃はなく、
光に導かれるように、静かに地面へ降り立つ。

「……無事、だ」

「無事じゃありません!」

「大丈夫だろう?」

悪びれない声でそう言って、
彼は私の手を取り、指を絡めた。

「さあ、こっちだ」

夜の庭園を抜けて、走り出す。

風を切りながら、
ディランはいたずらっぽく笑った。