夜明けが世界を染めるころ


ベルトルト男爵家を後にし、馬車に乗り込む。
ユウリとセナも私の向かい側に腰を下ろす。


「思ったよりもこの事件複雑そうですね」

セナが低い声で告げる。

「そうね、でも進展はあった。宝石に影響されるのは心に迷いがある人間なのかもしれない」

何か悩みがあるとか、弱ったところに漬け込まれているのかもしれない。

「セナ 宝石に魅了された人達が何か悩んでいなかったか調べてくれる?」

「わかりました」

「ユウリは怪しいローブの男が他でも出入りしていないか少し探って欲しい」

「承知致しました」

馬車の外を見ながら古書店の看板が目につく。

「そこの古書店寄りたいのだけれどいいかな?」

馬車が静かにとまる。
目の前に現れたのは、古びた木の看板を掲げた古書店。ガラス窓にはほこりがうっすらと積もり、内部の薄暗さが外からも感じられる。扉の取っ手には、長い年月を経た真鍮の色味が残っていた。

「少し本を見てきてもいい?何か情報があるかもしれない。セナは少し聞き込みして来てもらってもいい?」

「構いませんが、護衛なしで大丈夫ですか?」

少し心配そうな顔をする。

「大丈夫。この古書店のオーナーとは知り合いだしユウリにはついててもらうから2時間後また戻って来てくれる?」

「セナ ここは大丈夫です。そちらの仕事をよろしくお願いします」
ユウリも頷く、

「わかりました。では、失礼します」

セナが歩いていくのを確認し、私とユウリは古書店の中に入る。

扉を押して店内に入ると、木の香りと紙の匂いが混ざった独特の空気に包まれた。れた。店内には、ほこりをかぶった本棚が天井までぎっしりと並び、わずかな光が差し込む。

「いらっしゃいませ、あれティアナお嬢様じゃないか、久々だな」

白毛混じりの髪とひげを生やした書店の亭主、ロンおじさんが、笑顔を浮かべて声をかけてくる。珍しい書物や他では手に入らないマニアックな書物が多く、ティアナは定期的にここを訪れているのだ。

「ロンおじさん、お邪魔するね」

ユウリもお辞儀をする。心の奥にはまだ宝石の不気味さが残っているが、慣れ親しんだ空間に足を踏み入れると、少しだけ気持ちが落ち着いた。

「そっちの棚にティアナお嬢様が好きそうな本があるよ」

「本当?ありがとう」

ロンおじさんの声に、ふわりと安心感が漂う。

「あ、先客がいるからなー」

その声を耳にしながら奥に向かう。