夜明けが世界を染めるころ

ユウリとのダンスが終わり、
私は自然と、会場の隅に立つ彼へ視線を向けた。

壁際で腕を組み、
華やかな光から一歩引いた場所にいるセナ。


「ねぇ、セナ」

「お嬢様」

「なにしてるの?」

「……なにも」

「居心地、悪そうだね」

「こういう場には慣れていません。
剣を持たない時間のほうが、落ち着かなくて」

騎士として在ることが、
彼の居場所なのだと改めて思う。

「セナは、ダンスに誘ってくれないの?」

意地悪だとわかっていて、わざと笑った。

「お嬢様」

「私の専属護衛騎士なんだから、
ダンスくらいできるよね?」

「……まったく」

呆れたように言いながら、
その声はどこか柔らかい。

「人を巻き込むのが、本当に上手い」

「ありがとう」

「褒めてません」

ふっと、2人で息を漏らすように笑った。

やがて彼は、覚悟を決めたように姿勢を正す。

「……お嬢様。
俺と踊っていただけますか?」

「はい」

差し出された手は、剣を握る時と同じくらい確かだった。

水色の瞳が、逃げ場なく私を捉える。

音楽が流れ出し、
セナは無駄のない動きで私を導いた。

「……意外と上手だね」

「お嬢様の専属騎士ですから」

誇るでもなく、淡々と。
それが彼らしい。

「ねぇ、セナ」

「なんですか」

「最後まで、ついてきてくれてありがとう」

言葉にすると、胸の奥が少しだけ熱くなる。

「……当然です」

短くそう答えてから、続けた。

「この先も、貴女の騎士であることは変わりません」

一拍、置いて。

「ただし――
もう二度と、俺のためにあんな危険な共鳴は使わないでください」

低く、切実な声だった。

――あの時。
彼の名を呼び、無理やり引き留めた瞬間が脳裏をよぎる。

「それは……約束できないな」

「本当に、貴女って人は」

困ったように、でもどこか安堵したように息を吐く。

「それより。殿下とは話を?」

「……少し?」

「疑問形なのが不安なんですが」

少しため息をつき、セナが続ける。

「殿下は、お嬢様に本気ですよ。
ちゃんと向き合ってきたらどうです?」

「向き合うって、そんな簡単じゃ……」

「お嬢様らしくない」

「私らしいって?」

「迷っていても、誰かのためにズカズカと強引に踏み込めるところ」

「なんかひどい!」

すると
不意に距離が縮まった。

低い声が、耳元をくすぐる。

「……ティアナが迷っているなら、
俺が口説いてもいい」

「な、なっ……!?」

「冗談です」

小さく笑うその横顔は、
いつもの騎士ではなく、年相応の青年だった。