夜明けが世界を染めるころ

翌日。
エマに教えられたベルトルト男爵家にやってきた。
男爵家の領内でも指折りの良家だった。
派手さはないが、手入れの行き届いた庭と、落ち着いた石造りの外壁が、この家の格を物語っている。

門をくぐると、使用人がすぐに応対に出てきた。

「ご用件は?」

「ティアナ ラピスラズリと申します。
 ローズマリー様に、宝石の件でお話を」

名を告げると、使用人の表情がわずかに引き締まった。

「……少々お待ちください」

程なくして、ローズマリー自身が現れた。
以前会ったことがあるが表情が硬い。

「来てくださったのね」

「突然で失礼します」

私の隣には、ユウリとセナが控えている。
ユウリは周囲をさりげなく観察し、セナは一歩後ろで静かに気配を殺していた。

応接室に通されると、ローズマリーは早々に切り出した。

「……あの宝石を、エマに譲ってもらったんです」

彼女は小さな箱を机の上に置いた。

「そうですか、身につけてはいませんか?」

「ええ、エマが宝石をつけていた時はとても魅力的に見えたんです。けれどそれが不思議なぐらいその宝石が今はとても気味が悪くて…」

私は箱に手を伸ばす。
箱の中には、例の宝石。
箱の中からでもわずかに――嫌な気配が強まっていて、黒いモヤが漂う。

「身につけていなかったのは、正解です。
これは――人に害を及ぼす可能性がある。身体に異常はありませんか?」

その言葉に、ローズマリーははっと顔を上げた。

「ええ、大丈夫です」


「何か変わったことはありませんでしたか?ほんのささいな事でもいいんです。」

少しでも手掛かりがほしい。宝石に影響される人とそうでない人の区別があれば…
考える素振りをしながら静かに口を開く。


「関係あるかはわかりませんが…」

「構いません」

はっきりと告げる。

「その日 夫と言い争いの喧嘩をしてしまって…子供のことでも悩んでいたことがありまして。ひどく気分が落ち込んでいたんです。
それでブティック グロウでエマの宝石を見て、取り憑かれたようにそれが魅力的で…引き寄せられてしまったんです。」

空気が、静かに引き締まる。
精神が宝石に影響されている??弱った人の心に漬け込む宝石なの?
頷きながら話を聞く。

「でも、その後夫ともよく話し合って問題が少し解決したんです。そうしたらその宝石がとても気味悪く思えてしまって…」

「なるほど…とても参考になりました。
念の為、宝石はお預かりしてもいいでしょうか?」

「ええ、そうしていただけると幸いです」

ローズマリーはホッとしたような表情を浮かべた。