マリアンヌ様の部屋を出ると、
回廊の壁にもたれて腕を組む男がいた。
見覚えのある、赤茶の髪。
「……盗み聞きは趣味じゃない」
視線を逸らしたまま、低い声が落ちる。
「でも、出てくるのは分かってた」
「……お兄様」
その呼び方に、マルクの眉がぴくりと動いた。
「やめろ。慣れない」
「でも、そう呼べと」
「……言ったが」
歯切れが悪い。
少しの沈黙。
どちらから言葉を切り出すべきか迷っていると、
「……無事でよかったな」
それだけを、ぶっきらぼうに告げられた。
「はい」
短く返すと、彼は舌打ちする。
「……それだけか」
「来てくれるとは、思いませんでした」
そう言うと、マルクは困ったように視線を泳がせた。
「……俺は」
一度、拳を握りしめる。
「……あのとき、お前を庇ったのは
義務でも、命令でもない」
ゆっくりと、こちらを見る。
「妹だからだ」
胸の奥が、かすかに熱を帯びた。
「……ありがとうございます」
「礼を言われる筋合いでもない」
そう言いながら、彼はまた視線を逸らす。
「……母上にも言われた」
「これからは、ちゃんと前を向けと」
少し間を置いて、
「だから――」
「俺は俺で、進む」
不器用な宣言だった。
「……遅いですよ」
そう返すと、マルクは気まずそうに目を伏せる。
「お母様、ビシバシいくと仰っていました」
「……それは、恐ろしいな」
ぼそりと呟きながらも、
その口元は、わずかに緩んでいた。
そして、ぽつりと。
「……今度の誕生日だが」
「はい」
「花は……自分で持って行く」
あの約束を、覚えていたらしい。
「楽しみにしています、お兄様」
一瞬だけ顔をしかめてから、
「……呼ぶなと言っただろ」
そう言いつつ、
否定はしなかった。
回廊の窓から、風が吹き抜ける。
少し冷たくて、
それでもどこか、やさしい風だった。
血は繋がらなくとも。
すれ違い続けた時間があっても。
――今は、確かに。
兄と妹として、
同じ未来を見て立っていた。
回廊の壁にもたれて腕を組む男がいた。
見覚えのある、赤茶の髪。
「……盗み聞きは趣味じゃない」
視線を逸らしたまま、低い声が落ちる。
「でも、出てくるのは分かってた」
「……お兄様」
その呼び方に、マルクの眉がぴくりと動いた。
「やめろ。慣れない」
「でも、そう呼べと」
「……言ったが」
歯切れが悪い。
少しの沈黙。
どちらから言葉を切り出すべきか迷っていると、
「……無事でよかったな」
それだけを、ぶっきらぼうに告げられた。
「はい」
短く返すと、彼は舌打ちする。
「……それだけか」
「来てくれるとは、思いませんでした」
そう言うと、マルクは困ったように視線を泳がせた。
「……俺は」
一度、拳を握りしめる。
「……あのとき、お前を庇ったのは
義務でも、命令でもない」
ゆっくりと、こちらを見る。
「妹だからだ」
胸の奥が、かすかに熱を帯びた。
「……ありがとうございます」
「礼を言われる筋合いでもない」
そう言いながら、彼はまた視線を逸らす。
「……母上にも言われた」
「これからは、ちゃんと前を向けと」
少し間を置いて、
「だから――」
「俺は俺で、進む」
不器用な宣言だった。
「……遅いですよ」
そう返すと、マルクは気まずそうに目を伏せる。
「お母様、ビシバシいくと仰っていました」
「……それは、恐ろしいな」
ぼそりと呟きながらも、
その口元は、わずかに緩んでいた。
そして、ぽつりと。
「……今度の誕生日だが」
「はい」
「花は……自分で持って行く」
あの約束を、覚えていたらしい。
「楽しみにしています、お兄様」
一瞬だけ顔をしかめてから、
「……呼ぶなと言っただろ」
そう言いつつ、
否定はしなかった。
回廊の窓から、風が吹き抜ける。
少し冷たくて、
それでもどこか、やさしい風だった。
血は繋がらなくとも。
すれ違い続けた時間があっても。
――今は、確かに。
兄と妹として、
同じ未来を見て立っていた。
