そのあと、ディランはレイさんに引きずられるようにして部屋を出て行った。
名残惜しそうに何度もこちらを振り返っていたが、
王子として、やるべき後処理は山ほどあるのだろう。
今はきっと、休む間もない。
ガイルの研究施設は完全に閉鎖された。
地下区画は封鎖され、装置や資料の多くは王都管理下で処分。
そこに囚われていた被験者たちは、現在も治療を受けている。
心と身体、どちらも簡単には癒えない。
それでも――生きて、未来へ戻るための時間は、確かに与えられた。
ガイルという男について、王国は多くを語らなかった。
公表されたのは、
違法魔導研究の発覚。
王命による施設封鎖。
そして――責任者の身柄拘束。
それ以上の詳細は、すべて伏せられた。
混乱を避けるため。
再発を防ぐため。
公式には、そう説明されている。
けれど。
その判断が、ディランの独断だったことを、
私はあとから知った。
王族の権限で、記録を封じ、裁きを終わらせたのだという。
裁判も、公開処刑もなかった。
ただ静かに、
この事件そのものを“終わらせる”ために。
彼が何を背負ったのか、私は聞かなかった。
聞いてしまえば、
その重さを半分も背負えないと分かっていたから。
窓の外では、穏やかな風が庭木を揺らしていた。
あの日、すべてを飲み込んだ嵐が、
まるで嘘だったかのように。
それでも私は知っている。
守られた静けさの裏には、
誰かの決断と、覚悟があるということを。
そしてその中心に――
あの金色の背中があったことを。
私はそっと胸に手を当て、目を閉じた。
(……ありがとう、ディラン)
まだ傷は癒えない。
けれど、世界は確かに前へ進んでいた。
