光が、ほどけていく。
私の意識が深く沈みかけている。
その境界で――
ふいに、柔らかな温度が触れた。
懐かしい。
あまりにも、日常的な匂い。
◇
――トワが、初めて屋敷に来た日。
自己紹介をした私に
「……いえ。お構いなく」、
拒絶というより、
必要性を感じていないような声音だった。
それから何度話しかけても、
返ってくる言葉は短く、淡々としていた。
それでも――
無理やり手を引いて外へ連れ出した。
市場。
川辺。
城下の小さな菓子屋。
困った顔のまま振り回され、
気づけば少しずつ、表情が緩んでいった。
◇
昼下がり。
レオと並んで、芝生の上で弁当を広げる。
「これ美味しいぞ!」
そう言ったレオに戸惑いながらも頷き、
美味しいと口にした日。
◇
机に向かう午後。
ユウリが淡々と文字を指し示した。
「……分かりました」
真剣な横顔が、少し誇らしかった。
◇
夕暮れの訓練場。
セナが構えを正し、
木剣を打ち合わせる。
「力じゃない。呼吸を見ろ」
その言葉を、必死に反復していた。
◇
廊下の隅。
テオが気だるげに壁にもたれ、
「無理するな。倒れたら面倒だからさ」
それだけ言って去っていく。
けれど翌日、
トワの机には薬草が置かれていた。
◇
ブティック グロウ。
ルイが楽しそうに布を広げ、
「トワちゃんには、これがいいわ!」
オーダーメイドの服に包まれ、
鏡の前で落ち着かなくなる姿。
◇
朝の部屋。
アリスが静かに身支度を整え、
「寒くなりますから」
そう言って、上着をそっと掛けてくれた。
トワは小さく礼を言い、
何度も頭を下げていた。
◇
季節が巡り、
気づけばそれは“日常”になっていた。
そしてある日。
朝の光の中で、
トワは振り返り――
柔らかく、優しく微笑んだ。
「お姉様」
その呼び方が、
胸の奥を静かに震わせる。
「……ありがとう」
それは別れでも、覚悟でもなく。
ただ、
心からの言葉だった。
光が、ゆっくりと滲む。
声が、遠ざかる。
温もりだけを残して――
記憶は静かに閉じていった。
指先から、力が抜ける。
最後に聞こえたのは、
あの日と同じ、穏やかな声。
「おやすみなさい……お姉様」
その言葉に包まれながら、
彼女の意識は、深い闇へと落ちていった。
夜明けの光は、すでに世界を照らしていた。
だがティアナはまだ、
あの2年間の温度の中で――
静かに、眠っていた。
私の意識が深く沈みかけている。
その境界で――
ふいに、柔らかな温度が触れた。
懐かしい。
あまりにも、日常的な匂い。
◇
――トワが、初めて屋敷に来た日。
自己紹介をした私に
「……いえ。お構いなく」、
拒絶というより、
必要性を感じていないような声音だった。
それから何度話しかけても、
返ってくる言葉は短く、淡々としていた。
それでも――
無理やり手を引いて外へ連れ出した。
市場。
川辺。
城下の小さな菓子屋。
困った顔のまま振り回され、
気づけば少しずつ、表情が緩んでいった。
◇
昼下がり。
レオと並んで、芝生の上で弁当を広げる。
「これ美味しいぞ!」
そう言ったレオに戸惑いながらも頷き、
美味しいと口にした日。
◇
机に向かう午後。
ユウリが淡々と文字を指し示した。
「……分かりました」
真剣な横顔が、少し誇らしかった。
◇
夕暮れの訓練場。
セナが構えを正し、
木剣を打ち合わせる。
「力じゃない。呼吸を見ろ」
その言葉を、必死に反復していた。
◇
廊下の隅。
テオが気だるげに壁にもたれ、
「無理するな。倒れたら面倒だからさ」
それだけ言って去っていく。
けれど翌日、
トワの机には薬草が置かれていた。
◇
ブティック グロウ。
ルイが楽しそうに布を広げ、
「トワちゃんには、これがいいわ!」
オーダーメイドの服に包まれ、
鏡の前で落ち着かなくなる姿。
◇
朝の部屋。
アリスが静かに身支度を整え、
「寒くなりますから」
そう言って、上着をそっと掛けてくれた。
トワは小さく礼を言い、
何度も頭を下げていた。
◇
季節が巡り、
気づけばそれは“日常”になっていた。
そしてある日。
朝の光の中で、
トワは振り返り――
柔らかく、優しく微笑んだ。
「お姉様」
その呼び方が、
胸の奥を静かに震わせる。
「……ありがとう」
それは別れでも、覚悟でもなく。
ただ、
心からの言葉だった。
光が、ゆっくりと滲む。
声が、遠ざかる。
温もりだけを残して――
記憶は静かに閉じていった。
指先から、力が抜ける。
最後に聞こえたのは、
あの日と同じ、穏やかな声。
「おやすみなさい……お姉様」
その言葉に包まれながら、
彼女の意識は、深い闇へと落ちていった。
夜明けの光は、すでに世界を照らしていた。
だがティアナはまだ、
あの2年間の温度の中で――
静かに、眠っていた。
