夜明けが世界を染めるころ

封じ手としての核が解け、
引き裂かれるような魔力の奔流が、彼を中心に渦を巻く。

暴走するガイルの魔力が、吸い寄せられていく。

――だが。

「……っ、まだ……!」

魔力は収束しない。

むしろ、行き場を失った力が反発し、
研究区画全体を軋ませた。

床が割れ、柱が吹き飛ぶ。

「トワ……っ!!」

叫ぶ私の声に、少年は振り返らなかった。

彼の小さな背中が、光の中で揺らぐ。

その輪郭が、次第に眩さへと溶けていく。

(……行かないで)

喉まで込み上げた言葉は、音にならなかった。

次の瞬間。

――ギィンッ!!

轟音と共に、暴走した斬撃が一直線に飛ぶ。

その閃光の残像に、
私はまだ、あの背中を探していた。

核を解いた代償が何なのか、わからない。

それでも――
あの少年が、私たちを守るために立っていたことだけは、確かだった。

「ティアナ!」

呼ばれたことはわかった。

けれど、反応できずにいると―

鋼が、閃いた。




「……っ!」

斬撃を正面から受け止めた。
火花を散らしながら、剣を構える背中。

「ぼさっとするな」

吐き捨てるような声。
振り返らずに言う。
どうして…ここに。


「マルク?」

「“お兄様”と呼べ」

「……!」

「俺は大して役に立たない」

剣を握る腕は震えている。

それでも、退かない。

「だから、期待するな」

「……随分と謙虚ですね」

思わず零れたその一言に、彼は舌打ちした。

「うるさい」

その時だった。

崩れた壁の向こうから、重い足音が響く。

「――ティアナ!」

聞き慣れた声。

「……お父様……?」

現れたのは、アドルフ・ラピスラズリ。

その背後には、紋章を掲げた第一騎士団。

さらに外周から、王国騎士団の号令が重なる。

「状況確認は後だ」

アドルフは一瞬だけ娘を見ると、すぐ視線を前に戻した。

「それより妹――あれをどうにかしろ」

暴走するガイルを、マルクが指さす。

「お前の仕事だろ」

「……はいはい」

私は肩をすくめる。

その張り詰めた空気の中で、
ふっと、微笑んだ。

「そうだ、お兄様」

「なんだ」

「今度の誕生日は、直接お花を持ってきてくださいね」

一瞬の間。

「……は?」

「使用人に頼まずに」

くすっと笑う。

マルクは露骨に嫌そうな顔をした。

「……知ってたのか」

「ええ」

「……面倒な妹だ」

そう言いながらも、
その声音は、どこか柔らかかった。