トワは、静かに息を吐いた。
「本当はね。
僕の存在って――“封じ手”と呼ばれるものなんだ」
誰も、口を挟めなかった。
「人でも、化け物でもない。
世界の狭間に生まれた存在」
淡々と語るその声は、まるで自分のことではないようだった。
「危険なものが現れた時、
それを排除するためだけに造られた」
ゆっくりと、こちらを見る。
「本当なら――
僕が、君を処理しなければならなかった」
「世界の均衡のためにね」
空気が凍りつく。
「そんなこと――させない」
低く、力強い声。
ディランが一歩踏み出し、剣を構えた。
「……そうだね」
トワは苦笑する。
「ティアナ様が完全にセイレーンになれば、
僕は“処理する側”に戻る」
肩をすくめるように、静かに続けた。
「でも……たぶん、できないな」
「トワ……!」
震える声が、私の喉から零れた。
彼は少しだけ目を見開き、
それから、困ったように笑った。
「たった2年しか一緒にいなかったのにさ」
視線を落とす。
「……すごく、楽しかったんだ」
「ティアナ様、すごく優しいんだもん」
「距離を取ろうとしても、
いつの間にか僕の世界に踏み込んできてさ」
ゆっくりと、指を折る。
「一緒にご飯を食べて。
本を読んで。
花を見て……」
「他愛もない時間ばっかりだったけど」
唇が、わずかに震えた。
「君のそばにいる時だけは――」
小さく、息を吸う。
「僕は、人になれた」
「“封じ手”でも、研究対象でもなく」
「……弟として、いられたんだ」
沈黙が、重く落ちる。
研究区画に残る魔力の残滓さえ、
今は息を潜めているようだった。
「だからさ」
トワは、かすかに笑った。
「世界のために君を殺すなんて――」
「もう、選べなくなっちゃった」
その言葉は、告白だった。
裏切りでも、脅しでもなく。
ただ一人の少年が下した、
“初めての自分の意志”だ。
