空気が、ざわりと歪む。
なにこれ?嫌な感じだ。
狂気、恐怖、焦燥――
魔女の雫由来の負の感情が、波のように広がろうとした。
そのとき。
レイは一歩も動かず、ただ小さく目を伏せた。
「……殿下の背後で騒ぐな」
短剣の柄頭が、淡く紫に脈打つ。
低く、静かな声。
まるで祈りのように――
「静寂を保て。惑いを断て――アメジスト」
瞬間。
紫水晶の紋様が刃の内側に浮かび上がり、
音のない波紋が、床を這うように広がった。
叫び声は、途中で霧散する。
詠唱は、喉の奥で途切れ、
魔力は形を失い、沈んでいく。
狂気の光が消えた。
「レイ、遅いじゃないか」
軽口を叩くディランにレイは肩をすくめた。
「申し訳ありません。少々、騒音の処理を」
その一言で、場の空気が引き締まる。
私は、思わず息を呑んだ。
――全員、揃った。
背後から、ディランが静かに言う。
「……これで、やっと本番だな」
その声に呼応するように、
蒼と光。
氷と雷と土。
炎と紅。
土と氷。
薔薇と月。
整と静。
宝石の輝きが、戦場を照らし出す。
