夜明けが世界を染めるころ

「私も援護します」

その背後で、アリスが静かに告げた。

懐から取り出したのは、小型魔導拳銃。
装飾を抑えた銀白の銃身、その側面に埋め込まれた月色の宝石が、かすかに脈打つ。

「――静めなさい。ムーンストーン」

澄んだ声。

銃口が、淡く白く輝いた。

「……発射」

乾いた音が一つ。

放たれた光弾は、悲鳴を上げることなく宙を裂き、
警備兵の足元と肩へ正確に命中する。

魔力だけを断ち切る、封魔弾。

「うっ……!?」

「身体が……動かない……!」

ローズクォーツの陶酔が意識を奪い、
ムーンストーンの鎮静が魔力を沈める。

2つの宝石の力が重なり合い、
警備兵たちは次々と床へ崩れ落ちた。

「……制圧、完了です」

アリスは静かに銃を下ろす。

その間も、ユウリの指先は止まらなかった。

「あと10秒……」

一つ、また一つ。
魔力の流れが、意図的にわずかずつ歪められていく。

警備は眠らない。
ただ――目覚めるのが遅くなるだけだ。

やがて制御盤の光が安定する。

「……成功です」

ユウリが息を整えた。

「警備結界、監視装置、警報魔導。
すべて反応が鈍化しました」

「小規模な異常なら、誤作動として処理されるはずです」

「さすがね……ユウリちゃん」

ルイが感心したように微笑む。

ユウリは制御盤から手を離し、静かに息を整えてから答えた。

「お嬢様の執事ですので。これくらいは」

淡々とした口調だったが、その言葉には揺るぎない誇りがあった。

アリスが小さく肩をすくめる。

「執事の仕事って、大変ですね」

「ええ」

ユウリは即答した。

「命の危険もありますし、睡眠時間も不規則。
時には国家機密を扱い、時には研究所へ不法侵入もします」

「……最後、執事の業務内容じゃないわよね?」

ルイがくすっと笑う。

「ですが」

ユウリは一瞬だけ視線を伏せ、すぐに前を見据えた。

「お嬢様が無事でいられるなら、それで十分です」

その言葉に、アリスとルイは顔を見合わせ――

「重いわねぇ」

「でも、嫌いじゃないわ」

小さく笑い合った。

その直後。

通信魔宝具が、かすかに震えた。

――正面が、動き出す。