夜明けが世界を染めるころ

―そこにいるのは、ルイの妹。

年の頃は十三、 四だろうか。柔らかな栗色の髪を結い、普段なら控えめな色合いのドレスを身にまとっている彼女だが。
今日はなぜか彼女らしくない派手な青のドレスで作業台の前に立っていた。

そして――胸元で、淡く鈍い光を放つ赤い宝石。

「……エマ?」

私が息を詰めて呟くと、ルイは小さく頷いた。

「ええ。エマよ。あの日の翌日から、様子がおかしくて」

「どんなふうに?」

「今までなら絶対に口答えなんてしなかったのに、急に強気になってね。視線も鋭くなったし、言葉遣いも荒くなった。服装も派手でまるで……別人みたい」

ルイは冗談めかしたお姐言葉を封じ、兄としての顔で妹を見つめている。

「その宝石は?」

「例のローブの人物が置いていったものよ。断ったはずなのに、いつの間にか裏口の前に箱があって……エマが“綺麗だから”って、つい身につけてしまったの」

胸元の宝石は、赤いルビーのような深い色合い。覗き込むと吸い込まれそうな、不快な奥行きがある。そしてはっきりと見える私にしか見えない’黒いモヤ’。
明らかによくないものだ。

「外させたの?」

「試したわ。でもね……」

ルイは唇を噛みしめる。

「触れようとしただけで、ひどく拒まれて。力も強くなっているみたいで……あの子、私を突き飛ばしたのよ」

空気が、ひやりと冷える。

噂は本当だ。
宝石が、人を変えている。

「ティアナちゃん…」

ルイが静かにこちらを見る。

「お願い。あの子を、元に戻したいの。宝石のこと、調べているんでしょう?」

私は一度、深く息を吸った。

「任せて。必ず外す方法がある」

そう言って、私はエマの方へ一歩踏み出した。

その瞬間――
彼女がゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。

その瞳は、確かにエマのものだった。
けれど、宿っている光は、まるで別の誰かのように冷たく、底知れなかった。