夜明けが世界を染めるころ

食堂でしばらく皆と過ごしたあと、
私はアリスと一緒に部屋へ戻った。

「お嬢様、今夜は少し冷えますから」

そう言って、アリスは手際よくカーテンを閉め、
お風呂の支度を整えてくれる。

湯気の気配と、ほのかな石鹸の香り。
私の髪を優しく洗ってくれる。
至れり尽くせりだな。

「ありがとう」

「ふふ、今日はよく笑っていましたね」

「……そうだった?」

「はい。とても安心しました」

お風呂から上がると手際よく髪を乾かしてくれる。

「では、おやすみなさい。何かあればいつでも遠慮なく」

微笑むアリスが出ていった。
私はベッドに腰を下ろした瞬間、ふと昼間の光景がよみがえった。

(ディランの書斎……)

机いっぱいに積まれていた、あの書類の山。

「……あれ、減ってなかった気がする」

王子の仕事量なんて、考えるまでもなく多い。

(まさか……)

「夜中まで、やってたりしないよね……?」

胸の奥に、ちくりとした心配が生まれる。

湯上がりで体は温かいのに、
なぜか落ち着かない。

ベッドに横になって目を閉じても、
頭に浮かぶのは彼の横顔ばかりだった。

うたたねはした。

ほんの少し、浅い眠り。

でも――

「……眠れない」

静かな部屋で、時計の音だけがやけに大きい。

私はゆっくりと身を起こした。

(少しだけ……様子を見るだけ)

起こすつもりも、話すつもりもない。

灯りがついているか、
まだ起きていないか。

それだけ確認できればいい。

そう自分に言い聞かせて、
上着を羽織る。

廊下は夜の静けさに包まれていた。

足音を忍ばせながら歩くたび、
胸の鼓動が少しだけ早くなる。

(……書斎、まだ明かりついてるかな)

扉の前に立ち、
そっと、取っ手に手をかけた。

――中から、かすかな紙の擦れる音がした。

やっぱり。

私は小さく息を吸い、
ノックしようか迷いながら、扉に耳を近づけた。

その向こうにいる彼の姿を思い浮かべながら。