夜明けが世界を染めるころ


食堂にくると
パンの焼ける匂い。
スープの湯気。
どこか懐かしい、安心する匂い。

扉を開けた瞬間――

「お嬢様!」

「来た来たー!」

一斉に声が上がる。

長テーブルには、すでに皆が揃っていた。

レオが大きく手を振る。

「もう! 心配したんですよ!」


アレンとロベルトも並んで立ち上がった。

「本当に大丈夫ですか?」

「顔色は良さそうだな!」

「……声が大きい」

セナがいつもの調子で小さく注意する。

「うるさくしてすみません……!」

ユウリは、少し後ろで穏やかに微笑んでいた。

テオはぐいっと遠慮なく腕を引いた。

「お嬢さまー、俺の隣ね」

「ちょっ、テオ――」

その瞬間。

「ティアナは、私の隣だよ?」

静かな声。
けれど温度のない、はっきりとした圧。

振り向くと、ディランがにこやかに微笑んでいた。

――笑顔なのに、怖い。

「なにそれ? 独り占めしすぎ」

テオはまったく怯まず、むしろ楽しそうに口角を上げる。

「うざがられるよ、殿下」

そして、私のほうを振り返る。

「ねぇ、お嬢さまー?」

そのまま、ぐいっと引っ張られる。

「ちょ、ちょっと……!」

一歩、テオ側へ傾いた瞬間。

今度は反対の手首を、すっと掴まれた。

「……離してもらおうか」

低い声。

ディランの手は強くないのに、逃げられない。

「えー、こわ」

テオは肩をすくめる。

「でも先に誘ったの俺だよ?」

「君の“先”は信用していない」

「ひどっ」

2人の間に、静かな火花が散った。

「……あの……」

私が声を出すと、

「ティアナは黙ってて」

「お嬢さまは口出さないで」

同時に言われた。

「えっ」

「「今、重要なところだから」」

……重要らしい。

「……席、いっぱい空いてるんだけどな」

小さく呟いた私の声は、誰にも届かなかった。

そのとき。

「……お2人とも」

背後から、凍るほど穏やかな声。

「食堂での綱引きは禁止です」

ユウリだった。

「お嬢様が転ばれたら、誰が責任を取るのですか?」

ぴたり。

空気が一瞬で静止する。

「……それは困る」

「確かに」

2人が同時に手を離した。