夜明けが世界を染めるころ

――どれくらい眠っていたのだろう。

微かな物音に、ゆっくりと意識が浮かび上がる。

「……ん……」

瞼を開けると、視界はもう夕焼けではなかった。
窓の外はすっかり藍色に沈み、部屋の中にはランプの淡い灯りだけが揺れている。

「……暗……」

小さく呟いた瞬間、頭の上で微かに息が動いた。

「起きたか」

低く、少し掠れた声。

「ディラン……」

見上げると、彼はまだ私を胸に抱いたまま、目だけを開けていた。

「いつから起きてたの?」

「ついさっきだ。君が身じろぎした」

そう言いながら、腕は緩まない。

むしろ、私が離れないように、そっと引き寄せられる。

「……夕食、約束してたのに」

「まだ間に合う」

「でも、もう夜だよ?」

「夜の食事も悪くない」

くすりと、小さく笑う気配。

窓の外から、遠くで鐘の音がひとつ響いた。

「……一緒に寝てたの、誰かに見られてないかな」

そう言うと、ディランは少し考えてから答える。

「レイなら、見て見ぬふりをしただろう」

「絶対気づいてる……」

「だろうな」

その声には、どこか安心した響きがあった。

私はそっと体を起こそうとして――
また、ふらりと揺れる。

「……っ」

すぐに、腕が支えた。

「無理をするな」

「だいぶ回復したよ?」

「それでもだ」

低い声は、優しいけれど譲らない。

「今日は、私が甘やかす番だ」

「そんな番、あったっけ」

「今できた」

そう言って、額に軽く触れる。

熱を確かめるような、慎重な仕草。

「……熱はないな」

「心配しすぎ」

「足りないくらいだ」

そう呟いてから、少しだけ視線を逸らす。

「君が眠っている顔を見ていると……」

「見てたの?」

「かなり」

「……起こしてよ」

「起こせなかった」

その理由を問う前に、彼は静かに続けた。

「こうして呼吸しているのを見ているだけで、胸が満たされてしまった」

言葉が、夜の静けさに溶ける。

私は、思わず彼の服をぎゅっと掴んだ。

「……ディラン」

「ん?」

「寝る前にした約束」

「忘れていないよ。夕飯食べ行こうか」

一瞬、彼は目を細めて――
それから、ゆっくり頷いた。