夜明けが世界を染めるころ

「さて、今日はここまでです」

セナがそう告げ、木剣を下ろした。

「うん、わかった」

素直に頷くと、

「……珍しく素直ですね」

と、少し意外そうな声。


「だって」

私は肩をすくめて笑う。

「みんなから“無理はだめです!”って、何度も念を押されたから」

ユウリに、
ディランに、
テオに、アリス、
お医者様と、
ほんとにみんなから

思い出すだけで苦笑いが浮かぶ。

「そうですね」

セナは小さく息を吐き、ふっと笑った。

その笑みは、以前よりどこか柔らかい。

「皆、本気で心配しています」

「……うん、知ってる」

木陰を渡る風が、汗を冷やしていく。

しばらく並んで歩いてから、セナがぽつりと言った。

「ですが」

視線は前を向いたまま。

「こうして再び剣を握られている姿を見られるのは……正直、安心します」

「心配性だね」

そう言うと、

「騎士ですから」

と、いつもの答え。

けれど続けて、ほんの少しだけ声を落とした。

「……貴女のおかげです」

思わず足を止める。

振り返ると、セナはすぐに視線を逸らした。

「それ以上の意味はありません」

きっぱりとした言い方。

でも、耳がわずかに赤い。

「……うん」

私は微笑んで、再び歩き出す。


セナと別れた後 部屋に戻ったが…
正直、少し退屈だった。

ディランから借りた本も、すでに読み終えてしまったし。

(続き、あるって言ってたな)

ふと思い出す。


「少しだけ、顔を出すくらいなら……」

私はカーディガンを羽織り、
静かに部屋を出た。

廊下は午後の光に満ちていて、
窓から差し込む風が、カーテンをゆらりと揺らしている。

歩くたびに、体がちゃんと自分のものに戻ってきているのが分かった。

(……うん、大丈夫)

廊下に出ると、ちょうど向こうから歩いてきた人物と目が合う。

「レイさん」

「おや、ティアナ様。もう動いて大丈夫なのですか?」

「うん、少しだけ」

そう答えると、レイは安心したように微笑んだ。

「殿下をお探しですか?」

「……わかるんですね」

「顔に書いてあります」

即答だった。

少し照れながら尋ねる。

「ディラン、どこにいるか分かりますか?」

「先ほどまでは書斎に」

「書斎……」

「ただ、少々根を詰めておられましたので」

意味深な言い方に、首をかしげる。

「……邪魔だったら戻ります」

「いえ」

レイは静かに首を振った。

「殿下は、ティアナ様が来られるなら喜ばれるでしょう」

「え?」

「3日間ずっとティアナ様に付き添っていましたから」

その言葉に、胸が少しあたたかくなる。

「……ありがとうございます」

軽く頭を下げ、書斎のある廊下へ向かう。

分厚な扉の前で、足を止めた。

(忙しかったら、すぐ帰ろう)

そう思いながら、そっとノックをする。