夜明けが世界を染めるころ

セナが目を覚まして5日たった。
セナは変わらずいつも通りだ。

あまりに、いつも通りで――
あの言葉のすべてが夢だったのではないかと思うほどに。

想いを告げられ、
私もそれが初恋だったのだと伝えた、あの日。

彼は静かに微笑って、

『「俺は身を引く」』

そう言った。

それでも続けて

『「俺は、ずっと君が好きだ」』

『「見返りも、約束もいらない」』

『「ただ……
好きでいることだけは、俺の自由だろ?」』

そう告げた。

胸に残るほど真剣で、切実で、優しい声だった。

――それが、本当に現実だったのか。

今、目の前にいるセナは、
以前と何一つ変わらない。

言葉遣いも、距離も、立ち位置も。

騎士としての一線を、完璧なまでに守っている。

けれど。

ほんの一瞬、視線が合ったとき。

私が無理をしていないかを確かめるような、
わずかに柔らいだ眼差し。

誰にも気づかれないほどの、小さな違い。

(……変わらないけど、同じじゃない)

そう思う。

恋人になるわけでもなく、
距離が縮まったわけでもない。

けれど確かに、
“想いを知ったあとの静けさ”が、そこにあった。

私も体力を戻すため、訓練を再開している。

最初は、基礎動作から。

剣を振る回数も、走る距離も少なく。

「無理はなさらず」

セナはそう言いながら、
以前より少しだけ近い位置で見守っている。

近づきすぎず、
離れすぎず。

守るべき距離を、誰よりも正確に保ちながら。

剣を振るたび、身体に少しずつ力が戻ってくる。

呼吸が整い、
汗が額を伝い、
生きている実感が、身体に満ちていく。

過去の恋は、まだ胸の奥にある。

けれど、それはもう――
前へ進む足を縛るものではなかった。

私は今、自分の足で立ち、
自分の意志で剣を握っている。

その背を、静かに支える視線があることを知りながら。