夜明けが世界を染めるころ


「……いいわけないだろ」

ディランは笑顔のまま、俺の胸倉を掴みにかかってきた。

「その……不可抗力です」

「不可抗力で済む話ではないからね」

声を荒げることはない。
だが、静かなのに――ものすごい圧だ。
そして力が強い。

……意外と、わかりやすい人なのかもしれない。
以前までの印象は完璧で非の打ちどころのない王子だったが。
今は……年相応だな。

「失礼します」

静かに扉が開く。

「ちょっ、殿下!
何してるんですか!? 病人ですよ!」

レイが慌てて間に割って入る。

「……っ」
ディランは、わずかに眉をひそめた。

そこへ、さらに。

「なになーに?
なんか面白いことしてるね!
俺もまぜてー!」

軽い声でテオが言う。

「まざるな」

俺が即座に言うと、
ディランはふっと息を吐き、手を下ろした。

「……」

そのタイミングで――

「あらー? 何、この騒ぎ」
「どうしたんだ!?」
「何事だ?」
「セナ副団長、大丈夫ですか!?」

ルイ、レオ、ロベルト、アレンが次々と入ってくる。

「殿下……ほんと勘弁してください」
レイが心底困った顔で言う。

「セナが生き返ったと思ったら、今度は喧嘩か!?忙しいな!」
レオは楽しそうに笑った。

「全く……」
ルイは呆れたように言いながらも、どこか面白そうだ。

「セナ副団長……」
アレンは目に涙を浮かべる。
「ご無事で、本当に良かったです」

アレンが抱きつく。

「じゃあ俺も失礼します!」

そう言いながら、
ロベルトも勢いよく抱きついてくる。

「……やめろ」
低く言い放つ。

「男に抱きつかれる趣味はない」

「冷たいなぁ!」

部屋に笑いが広がる。

……さっきまで死にかけていたとは思えない騒がしさだ。

だが、この騒音も、
この面倒くささも――

悪くない。

……ティアナ。

俺を、この世界に繋ぎ止めてくれてありがとう。

たとえそれが、
俺の初恋の終わりを意味していたとしても。

あのとき、
血に染まった視界の中で見たのは、
剣でも、使命でもなく――
貴女の顔だった。

それだけで、十分だった。

想いは、もう言葉にした。
だから、後悔はない。

これから先、
貴女がどんな道を選んでも。
誰と手を取り合って歩いても。

俺は、騎士として。
そして一人の人間として――

貴女とともに歩く。

剣を取る場所は、変わらない。
守るべきものも、変わらない。

……それでいい。

それが、
俺が選んだ答えだ。