夜明けが世界を染めるころ

「そっか!それもそうだ!お嬢さーん、俺もいいですか?」
首を傾げて聞くレオに、

「もちろん。持ってきてくれて助かったよ。仕事の時間は平気?」

「はい!今は休憩時間だから、少しなら平気です!」

「あ、これめっちゃ美味しい」
隣のテオが、すでにフィナンシェを口にしていた。

「テオ、挨拶してから食べろ」
やれやれとため息をつくセナ。

「でしょ!こっちも美味しいから食べてみて!」
レオは気にせず、テオに新しい味のフィナンシェも勧める。

「あ、どうも」
短くお礼を言って、テオはフィナンシェを頬張る。
なんだかリスみたいだ。ふふっと笑うと、テオがこちらに目を向ける。

「お嬢さまぁ、なんで笑ったのー?」
小首を傾げるテオに、自分の口元を指す。

「ついてるよ」
口元にフィナンシェのカスがついているのを教えると、

「ほんとー?お嬢さまとって?」
そよ風が吹き、テオの長い前髪が揺れる。
ルビーのように赤い瞳が熱を帯びて、私をじっと見つめる。
たまに、歳下とは思えないほどの色気を垂れ流す瞬間があるのだ。

ポケットからハンカチを取り出し、テオの口元を拭こうと手を伸ばしたその瞬間――

「俺が拭きましょう」

「ちょっ、痛い。痛いです」
セナが自分のハンカチをテオの口元に押し付けている。

「もういいですって、取れましたから」
セナの腕を振り払い、テオの口元が少し赤くなっているのを見て、私は思わず苦笑いする。

「セナとテオ、仲良しだな!」
レオが二人を見て笑う。

「仲良くないです。手のかかる後輩です」
テオの口元を拭いたハンカチをパタパタしながら、セナはフィナンシェのカスを落としつつ答える。

「たった今、陰湿な先輩にいじめられたんですけど」
赤くなった口元をテオがさする。

「誰が陰湿だと?」
セナがテオを睨むが、本人は全く気にしていない様子だ。

「だって、俺がお嬢さまと仲良くしてるの、気に入らないんでしょー?セナ副団長、むっつりですもんね」

「そのうるさい口に俺の分のフィナンシェも入れてやるよ」
セナはテオのほっぺを片手でつまみ、フィナンシェを口に押し込もうとする。

「いひゃいひゃい。ぼうりょくはんたい!」
テオは片言のまま、慌てて声を上げる。