夜明けが世界を染めるころ

レイside

会場の空気を上から見下ろすように、私は静かに立っていた。

殿下とティアナ様が一歩前に出ると、視線が一斉に向けられる。
拍手、囁き、驚き。
そのすべてが、まるで計算された波のように広がる。

前列の貴族たちは、互いに小さく視線を交わし、表情を探る。
緊張の隙間に、期待と猜疑が入り混じる。
彼らの視線は、礼儀正しいが、冷静に価値を測っていた。

殿下を狙っていた令嬢達の妬みや悲鳴も聞こえる。

教会関係者たちは、宣言の重みを瞬時に理解し、静かに頷く者もいる。
拍手をためらう手元に、信頼の確認のような空気が流れる。

――だが、端の影。

ガイル側の人物たちは、別のリズムで呼吸している。
表面上は無表情、沈黙。
だが、目の奥で計算が渦巻き、行動のタイミングを測っているのが見える。
彼らにとって、この婚約宣言は、行動を起こす合図だった。

小さな仕草――
顎を押さえ、指先で机を叩き、視線を交わす。
それだけで、次の一手が読み取れる。
彼らは今、動かざるを得ない。
隠れていた計画が、表に引きずり出される瞬間だ。

味方側も同様に、動きは静かだ。
テオは肩の力を抜きながらも警戒を緩めない。
ユウリは胸の奥で安堵しつつ、周囲の気配を確認している。
セナは軽く腕を組み、目だけで戦況を測る。

私は、全体を見渡しながら呼吸を整える。
婚約発表の光景は、単なる祝賀ではなく、戦場の布石でもあった。
殿下とティアナ様が一歩踏み出すたび、重厚な視線が交錯し、
それぞれの思惑が動き出す。

(……準備は整った)
(ここから先は、守るべき人と、敵の動きを見極めるだけ)

胸の奥で、静かに覚悟を固める。
逃げる必要はない。
殿下も、ティアナ様も、そして私も、ここに立っている。

戦いは、確実に動き始めたのだ。