夜明けが世界を染めるころ

鏡の中にいるのは、いつもの私ではなかった。

淡い光を含んだドレスが、肩から静かに流れ落ちている。
色は深く、しかし沈みすぎない――
アレキサンドライトの指輪の色に合わせて仕立てられたものだと、すぐに分かった。

「どう? 完璧でしょ?」

ルイが胸を張る。
その表情は、隠す気もないほど得意げだった。

「……すごいわ」

正直な感想が、自然と零れる。

布に重さはなく、締め付けもない。
それなのに、立っているだけで背筋が伸びる。

「指輪との相性、計算し尽くしてあるわ!
 そもそもティアナちゃんがきれいだから、こんなに完璧なのよ」

ウィンク付きのその言葉に、胸の奥が少しだけ跳ねた。

「……ありがとう、ルイ」

「お嬢様とてもお綺麗です」

ユウリが一歩前に出て微笑む。

「ありがとう」

そして振り返ると、部屋の隅で様子を見ていた面々が、揃って視線を逸らす。

「……っ」

レオが露骨に顔を赤くした。

「い、いや……その……似合ってます……」

アレンも、ロベルトも、同じように目を泳がせている。

「目、合わせられないのね」

思わず苦笑すると、3人そろって咳払いをした。

「べた褒めしていい?」

テオが遠慮なく前に出てくる。

「ほんと、きれい。可愛い」

そう言って、すっと手を取られた、その瞬間。

「テオ、離れろ」

セナが即座に割って入る。

「きれいです」

短く、けれどはっきりと。

「……とても」

「ありがとう」

思わず、そう返していた。

「本当に綺麗だよ」

穏やかな声で、ディランが微笑む。

「――わたしの婚約者」

その言葉ひとつひとつが、胸の中に静かに積み重なっていく。

部屋の奥。
少し距離を取った場所でレイさんは変わらず静かに立っていた。ただ、見守るように。


(……大丈夫)



ドレスの裾を整えながら、指輪に視線を落とす。
アレキサンドライトは、光の加減で色を変える。

「準備はできたかい?」

ディランの声に、私は顔を上げた。

「ええ」

小さく息を吸い、背筋を伸ばす。

(これは、肩書きじゃない)
(噂でもない)

――私が選んだ結果で、私がここに立っている。

その事実だけを胸に、
私は一歩、前へ進んだ。