夜明けが世界を染めるころ

ティアナside
婚約発表の3日前。


ナタリーさんは、病院で眠るように息を引き取ったとのことだった。
亡くなった後にみた表情はとても穏やかで、長い役目を終えた人のようだった。

幼い頃から、私の身の回りのすべてを支えてくれた人。
母のことを知り、語れる――数少ない存在でもあった。


悲しくないわけではない。
胸の奥が、ひどく静かに痛む。

それでも私は、涙をこらえて立っていた。

立ち止まることは、きっとナタリーさんの望みではない。
前を向いて歩くことこそが、あの人が私に教えてくれた生き方だったから。

埋葬は、殿下のつてにより、身内のみで執り行われた。

冷たい土の前で、私は祈りを捧げる。

ディランは、ただ私の隣に立っていた。

「……泣かないのかい?」

「今は、泣きません」

「そうか。強いな」

少しだけ、からかうように彼は笑った。

「胸を貸す準備はできていたんだがね」

「相変わらずですね」

「はは」

私は一拍置いてから、静かに続ける。

「……じゃあ、貸してほしい時は言いますから。
そのときは、空けておいてください」

「君なら、いつでも大歓迎だ」

その言葉に、胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなった。


私は小さく息を吸い、背筋を伸ばす。

――大丈夫。
私は、進む。


あなたが見守ってくれていると、信じているから。