夜明けが世界を染めるころ

翌朝

早朝の訓練場。
まだ霧が残り、空気はひんやりとしている。

剣の風切り音だけが、規則正しく響いていた。

俺はは一人で剣を振っていた。
無駄のない動き、研ぎ澄まされた一太刀。

――そこへ。

「相変わらず、無駄がないな」

背後から聞こえた声に、剣を止めず答える。

「殿下こそ。こんな時間にどうしました」

ディランは軽く肩をすくめた。

「君がどんな剣を振るのか、ちゃんと見ておこうと思ってね」

俺は一瞬だけ動きを止め、ディランを見た。

「……監視ですか?」

「違うよ」

否定は即答だった。

「これから同じ戦場に立つ人間を、
信頼できるかどうか確かめに来ただけだ」

俺は再び剣を構える。

「信頼、ですか」

「君は私をを信用していない。
それは分かってる」

ディランは訓練用の剣を手に取り、距離を詰める。

「でもね、君の“覚悟”は信用している」

その言葉に、剣が一瞬、揺れた。

「……俺は」

「彼女を守るためなら、
私を斬ることも厭わないだろう?」

図星だった。

「それでいい」

ディランは真っ直ぐ剣を構える。

「それが、彼女の隣に立つ者の資格だ」

次の瞬間、剣がぶつかり合う。

――鋭い音。

一合、二合。
どちらも本気ではない。だが、手は抜いていない。

「殿下は」

セナが低く言う。

「なぜ、そこまで背負うんです」

剣を受け止めながら、ディランは笑った。

「選んだからだよ」

「王族だから?」

「違う」

刃が噛み合う。

「ティアナが前に進むと決めたから。
なら、私も前に立つ」

俺は息を吐いた。

「……似ていますね」

「誰に?」

「お嬢様に」

一瞬、ディランの目が細くなる。

「それは、光栄だ」

最後に剣を引き、2人は距離を取った。

「セナ」

ディランは剣を下ろし、はっきりと言う。

「彼女を守る。
それは命令じゃない」

「……」

「選択だ」

沈黙の後、俺も剣を下ろした。

「――承知しました」

以前とは違う、迷いのない声。

「殿下が前に立つなら、
俺は――その死角を守ります」

ディランは一瞬驚いた顔をしてから、
ふっと笑った。

「それは心強い」

2人の間に、言葉はそれ以上いらなかった。

信頼とは、誓うものではない。
並び立ち、背を預けられると知ること。

霧の向こう、朝日が差し始める。

その光の中で、
2人は初めて――同じ方向を見ていた。