夜明けが世界を染めるころ

そして、私はしっかり休んだ。
熱が下がり少し出た散歩で疲れてしまったので、そのあとの丸3日はユウリとお医者様の判断でほとんど何もせずに過ごすことになった。
中々退屈だったけど。

そのおかげで――

「……うん、だいぶ戻ってきた」

体を起こしたときの重さも、
息を吸ったときの違和感も、ほとんどない。

まずは体力を戻さないと!

窓を開けると、柔らかな風がカーテンを揺らす。

中庭から、かすかに金属の音が聞こえた。

――剣。

しかも、聞き慣れた、落ち着いたリズム。

「……もしかして」

私は上着を羽織り、そっと廊下へ出た。

誰にも気づかれないように、
ゆっくりと中庭へ向かう。

木々の影の向こう。

そこにいたのは――

一人で剣を振る、ディランだった。

普段の訓練よりも静かで、
誰かに見せるためではない、研ぎ澄まされた動き。

呼吸。
踏み込み。
剣筋。

すべてが、無駄なく、真剣で。

けれどその背中は、
どこか張り詰めすぎているようにも見えた。

思わず足を止める。

声をかけていいのか、迷っていると――

「……そこか」

振り向かず、ディランが言った。

「気配が軽すぎる」

「……ばれてた」

彼は剣を下ろし、ようやくこちらを見る。

その表情は、いつもの穏やかさに戻っていた。

「体は?」

「だいぶ元気」

「……そうか」

ほんの一瞬、肩から力が抜けたのが分かった。

「無理はしていないか」

「してない。約束守ってる」

そう答えると、ディランは小さく息を吐いた。

「よかった」

たったそれだけの言葉なのに、
胸の奥があたたかくなる。

「今日は、午後は休めって言われてるんだけど」

「うん」

「だから……少しだけ、見学してもいい?」

ディランは少し考えてから、微笑んだ。

「なら、日陰のベンチに」

「王子様直々の指定席だね」

くすっと笑うと

「特別扱いだよ」

そう言って差し出された手は、
あの日、私を支えてくれたのと同じ、温かさだった。

静かな午後。

剣の音と、風と、
回復した身体と――

ようやく戻ってきた、日常の気配がそこにあった。