夜明けが世界を染めるころ

ディランの背は、セナとはまた違う安定感があった。

揺れはほとんどなく、歩幅も呼吸も一定で、
眠気に沈みかけた意識がゆっくりとほどけていく。

「……ディランは、疲れてないの?」

背中越しに、そっと尋ねる。

「私か?」

「うん。昨日、夜通しついててくれたでしょ?」

一瞬、歩みが緩んだ気がした。

「大丈夫だよ」

静かな声だった。

「君が眠っている間は、特に何もしていない」

「……それ、休んでないっていうんじゃ」

「椅子に座っていた」

「それを休みって言わないよ」

小さく抗議すると、ディランはふっと息を漏らした。

「……確かに」

そう認めてから、少しだけ声を和らげる。

「だが、疲れていても構わない」

「どうして?」

「目を離したくなかった」

短い言葉だったが、迷いはなかった。

「君がうなされるたびに、呼ばれるのではないかと思ってな」

「……」

胸の奥が、きゅっとする。

「ごめんね」

「謝ることじゃない」

即答だった。
回廊を進む足音が、規則正しく響く。

「……ディラン」

「なんだ」

「ありがとう」

背中越しでも分かった。

その言葉に、彼の肩がほんのわずかに緩む。

「礼を言われるほどのことではない」

「でも……嬉しかった」

そう呟くと、少し間が空いた。

「……そうか」

それだけだったけれど、声はどこか柔らかかった。

部屋の扉が見えてくる。

中から、控えめな足音。

「――お帰りなさいませ」

ユウリの声が聞こえた。

ディランは歩みを止め、静かに言う。

「もう少しだ。起きていられるか?」

「……たぶん」

「無理なら、そのままでいい」

そう言って、彼はさらに腕に力を込めた。
その背中は、最後まで揺るがなかった。