夜明けが世界を染めるころ

「いつまでお前はお嬢様の手を取ってるんだ」
セナがテオの手を、私からすっと引き剥がす。

「別にいいでしょう。久々に会えたんだし」
むすっとした顔で答えるテオ。

「それにしても、さっきの試合見てたけど、セナまた強くなったよね!」

「そうですか?」

「俺も思った。あんなボロい木剣をあんな風に扱えるなんて、同じものを使ってるとは思えないよ」

テオの木剣は真っ二つに折れている。
しかしセナの木剣は、傷はあるもののまだしっかりしている。

「それより、テオ。お前、もう少し敬語を覚えろ。それじゃあ、お嬢様の護衛を任せるのも難しいぞ」

「わかりましたよー」
気怠げに返事をするテオに、私は思わず微笑む。

「そうだよ、テオ。護衛騎士として一緒に連れて行くなら、礼儀作法も学んでもらわないとね」

「わかりました!お嬢さまあ!」
セナへの態度とは裏腹に、しっかり敬礼するテオ。

「調子の良いやつめ……」
セナのため息が、少し苦笑を含んで聞こえた。

「とりあえず、私とも手合わせいい?」

「もちろんですよ。誰か、そこの木箱の横に置いてある木剣を持ってきて」
さっき試合中、セナにあしらわれていた騎士団員たちに声をかける。

「はい!」

一際大きな声で返事をし、
小型犬のように素早く動く赤銅色の髪をした騎士団員。

彼は勢いよく駆け寄ると、
丈夫そうな木剣を両手で差し出してきた。

「どうぞっ!」

あまりの速さに、
風が一瞬遅れてついてくる。

――速い。

ふと、初めて見る顔だと気がついた。

赤銅色の髪は短く整えられ、動くたびに軽やかに跳ねる。

瞳は透き通った黄金色。
陽光を閉じ込めたようなその色は、まっすぐで迷いがない。

濃紺の騎士団制服はまだ新品らしく、
袖や襟に刻まれた紋章が、やけに誇らしげに輝いていた。

「君は、入ったばかりの新人のアレンくんかな?」

「へっ!? は、はい!
 アレンと申します。コナミ村出身です!
 よろしくお願いいたします!」

私が名を知っていたことが予想外だったのだろう。
一瞬、素っ頓狂な声を上げたかと思えば、
すぐに背筋を伸ばして丁寧に名乗る。

赤銅色の髪が風を切るように揺れ、
勢いよく頭を下げるその様子は、実に元気いっぱいだ。

勢い余って膝に額をぶつけていないか、
思わず心配になってしまうほどだった。

――コナミ村。

標高の高い山間部にある、小さな集落。

そんな場所で育った少年が、
今こうして騎士団の制服に身を包んでいる。

その事実に、
私は自然と微笑みをこぼしていた。