夜明けが世界を染めるころ



「え、ちょっと待って。
たぶん疲れが――」

言い終わる前に、
ユウリは私の額から手を離し、
はっきりと言い切った。

「本日の訓練は、中止です」

「え?」

思わず声が裏返る。

「ユウリ、訓練は今日から大事な――」

「お嬢様」

遮るように、名前を呼ばれた。
声は低く、感情を抑えたものだ。

「この状態で共鳴訓練を行えば、
魔力暴走、もしくは精神過負荷の危険があります」

広間が、しんと静まり返る。

「ですが、これくらいなら……」

「“これくらい”ではありません」

即座に否定された。

「現在も体温が高く、
魔力の巡りが不安定です」

……何も言えない。

「今日は休養を最優先とします。
訓練は、私の判断で全面中止です」

その言葉に、
アリスがすぐに頷く。

「お嬢様、お部屋へ戻りましょう」

「えっ、ちょ……」

「フレンチトーストじゃなくてお粥をつくりますよ!」

レオまで援護に回る。
フレンチトーストは食べたかった…

「……みんなして」

抗議しようとしたが、
身体が言うことを聞かない。

一歩踏み出した瞬間、
足元がふらついた。

その瞬間――

「……危ない」

ユウリが、すぐに支える。

腕を取られ、
逃げ場を失う。

「ほら、やはり」

淡々とした声だが、
いつもより、ほんの少しだけ強い。

「お嬢様は、
ご自身の限界を見誤る癖があります」

……否定できない。

「今日は、
“何もしない”ことが訓練です」

そう言い切られてしまえば、
もう、何も言えなかった。

連れられて広間を出る途中、
ルイが肩をすくめて囁く。

「殿下に伝えておくわ」

……それは、それで、
少しだけ、気まずい。

でも。

ユウリの手は、
決して強くないのに、
不思議と逆らえなかった。

――たぶん、本当に。
今日は、休むべき日なのだ。