夜明けが世界を染めるころ



「……妹を、まあ……少しは大事にしてくれ」

ぶっきらぼうに、マルクがそう言った。

「意外だね。
君はティアナのこと、嫌っているのかと思っていたよ」

「嫌いじゃない」

即答だった。

「……気に入らないんだ」

「ふうん」

短く相槌を打つと、
彼は視線を逸らしたまま、続ける。

「昔はさ……
お兄様、お兄様って、可愛く後をついてきてたんだ」

一瞬、懐かしむような間。

「でも、剣術や馬術を始めてからだ」

声が、少しだけ低くなる。

「俺が百回、千回やって、
やっとできるようになったことを……
あいつは、数回でできるようになった」

「何をやっても、あいつの方が上だ」

拳を握りしめる音がした。

「それだけじゃない。
努力もする。挫けない」

吐き捨てるように言う。

「……天才が努力したら、
凡人がどうやったって、届くわけないだろ」

「不貞腐れたくもなるさ」

その言葉を聞いて、
胸の奥が、静かに疼いた。

――思い出したのは、兄のことだ。

何でもそつなくこなす兄。
人格も、能力も、
王としての資質は、俺よりはるかに上だった。

それなのに、
瞳の色が違うというだけで、
王位継承権から外された。

……俺より、よほど出来た人間だったのに。

「……私も、わかるよ」

自然と、言葉が零れた。

どれだけ努力しても届かない。
いや、届かないどころか、
最初から“見られてもいなかった”
幼少期を思い出す。

マルクが、苦虫を噛んだような顔でこちらを見る。
その顔は少しティアナに似てるかもしれない。

「……あなたに、わかるわけないだろ」

吐き捨てるように言いながら
どこか拗ねた子どものような声音だった。

「あなたもティアナと同じ、天才側だ。
それに……努力を、し続けられる才能まである」

「厄介な人たちだよ」

そう言って、
不貞腐れたように笑う。

……確かに。

だが。

「それでも、いつか向き合わなきゃいけない日が来る」

前を見据えて、静かに告げる。

逃げ続けることは、できない。
憧れも、劣等感も、
血を分けた存在からは、逃げられない。

「……わかってる」

小さく、マルクが呟いた。

それは、
誰に向けた言葉でもなく、
自分自身に言い聞かせる声だった。

――ティアナは、強い。

だが、
その強さを一番間近で見てきたからこそ、
彼は、誰よりも苦しかったのだろう。
まあ、気持ちはわからなくもないが同情する気はないけれど。