ナナside
マルク様と初めてお会いしたのは、
もう10数年前のことになる。
庭の片隅で、
小鳥が息絶えているのを見つけた。
「……小鳥が……」
思わず声を漏らした私の横で、
少年だったマルク様が足を止めた。
「うわ、こんなところに……
触るなよ。素手で触ると菌があって危ないからな」
そう言いながらも、
彼はポケットから手袋を取り出す、
小さな穴を掘り、そっと小鳥を埋葬した。
土をかけ終えると、
汚れた手袋を見下ろして言った。
「……手袋、汚いな。これは捨てる」
「ありがとうございます」
そう伝えると、
彼はそっぽを向いたまま、ぶっきらぼうに返した。
「ちがう。
こんなところで腐られても困るからだ」
優しい言葉ではなかった。
けれど、その手つきは、とても丁寧だった。
マルク様は、見た目がよかった。
伯爵家の長男で、周囲にはいつも女性がいて、
不真面目で、遊んでばかり――
そんな評判ばかりが耳に入っていた。
それでも。
この人の優しさを知っているのは、
私だけだと、そう思っていた。
お茶会に誘われたとき、
本当に、嬉しかった。
気合いを入れて、赤いバラを用意した。
17本。
その数の意味を、
ユリア嬢に指摘された。
――「絶望的な愛」。
恥ずかしくて、
胸が潰れそうだった。
「譲りましょうか」と言われたことも。
市民から男爵家になったばかりの子に
教養もないと思われていたことも。
何より、
それをマルク様に知られたくなかった。
花の本数の意味も知らない、
無知で愚かな女だと思われるのが、
怖かった。
だから――
私は、めちゃくちゃにした。
けれど、そのことはあっさりと露見した。
ティアナ・ラピスラズリ。
マルク様の妹。
彼女は、事実を知ったうえで、
それをねじ曲げ、
誰も傷つかない形にまとめてくれた。
私の初恋を、
苦い思い出にしないでくれた。
それから、
ちゃんと話すこともできないまま、
10年近くが過ぎた。
ずっと抱えていた、不安。
嫉妬。
叶わない想い。
それらが、
宝石に引き寄せられたのかもしれない。
……それでも。
彼女は、また助けてくれた。
今度ははちゃんと向き合いたい。
マルク様と初めてお会いしたのは、
もう10数年前のことになる。
庭の片隅で、
小鳥が息絶えているのを見つけた。
「……小鳥が……」
思わず声を漏らした私の横で、
少年だったマルク様が足を止めた。
「うわ、こんなところに……
触るなよ。素手で触ると菌があって危ないからな」
そう言いながらも、
彼はポケットから手袋を取り出す、
小さな穴を掘り、そっと小鳥を埋葬した。
土をかけ終えると、
汚れた手袋を見下ろして言った。
「……手袋、汚いな。これは捨てる」
「ありがとうございます」
そう伝えると、
彼はそっぽを向いたまま、ぶっきらぼうに返した。
「ちがう。
こんなところで腐られても困るからだ」
優しい言葉ではなかった。
けれど、その手つきは、とても丁寧だった。
マルク様は、見た目がよかった。
伯爵家の長男で、周囲にはいつも女性がいて、
不真面目で、遊んでばかり――
そんな評判ばかりが耳に入っていた。
それでも。
この人の優しさを知っているのは、
私だけだと、そう思っていた。
お茶会に誘われたとき、
本当に、嬉しかった。
気合いを入れて、赤いバラを用意した。
17本。
その数の意味を、
ユリア嬢に指摘された。
――「絶望的な愛」。
恥ずかしくて、
胸が潰れそうだった。
「譲りましょうか」と言われたことも。
市民から男爵家になったばかりの子に
教養もないと思われていたことも。
何より、
それをマルク様に知られたくなかった。
花の本数の意味も知らない、
無知で愚かな女だと思われるのが、
怖かった。
だから――
私は、めちゃくちゃにした。
けれど、そのことはあっさりと露見した。
ティアナ・ラピスラズリ。
マルク様の妹。
彼女は、事実を知ったうえで、
それをねじ曲げ、
誰も傷つかない形にまとめてくれた。
私の初恋を、
苦い思い出にしないでくれた。
それから、
ちゃんと話すこともできないまま、
10年近くが過ぎた。
ずっと抱えていた、不安。
嫉妬。
叶わない想い。
それらが、
宝石に引き寄せられたのかもしれない。
……それでも。
彼女は、また助けてくれた。
今度ははちゃんと向き合いたい。
